心を変えるより行動が先
心=意思から行動を変えるのではなく、行動から意思を変える。やる気があるから行動するのではない、行動するからやる気になる。つまり「感情や意志・思考といった心は、行動した後に生まれる」のだから、自分を変えたいのなら、心を変えるより、行動が先だ。
この方法なら、強い意志も、根性・努力といった忍耐力も必要ない。このベースになっているのが「行動分析学」という心理学の手法である。行動分析学は、分析によって、生物の行動の裏にある「原理」や「法則」を導き出し、それを生物の行動の予測や制御に生かす。さらにそれを応用することによって行動を修正し、「変えたい」問題を解決する。
実際に行動分析学は、ミスが許されない医療現場などでも応用されており、人の「努力」や「根性」といった不確定要素に頼らずに、人為的ミスをなくす手法として役立っている。
行動分析学から見ると、変わろうと思ってもなかなか変われない原因の1つに「気持ち」がある。変化できない理由を「意志が弱い」とか「やる気が出ない」といった気持ちのせいにすると、人はなかなか変われない。仮に「気持ち」を変えたとしても、「何をすればよいか」わからなければ行動できない。そして、行動に表れなければ、結局、何も変化が起こらない。その結果、多くの人が「能力がない」「性格的に向いていない」から変われないと考えてしまう。
行動することで、意志が作られる
行動分析学における行動の基本は次の2つで成り立っているとされている。
①反応(レスポンデント行動)
生体反応としての反射や生理現象を指す。これは基本的にコントロールできない行動である。このレスポンデント行動には、先天的に身につけている行動以外に、後天的に経験することによって身につける反射的な行動がある。これを「条件付け」と言う。条件付けされた反射的な反応も、自分では制御できない。
②操作できる行動(オペラント行動)
日常生活のほとんどの行動は、経験によって学ぶことで、自分で「する・しない」を選択し、自発的に「行動」している。この操作できる行動も「条件付け」することで強化することができる。
人間は行動をした後に報酬を得ると、同じ行動を自発的に繰り返すようになる。人に褒められるなど、良いフィードバックを得ると、満足感=「快」を感じ、また「快」を得ようと行動を繰り返すのである。
この「快」を得ながら自発的に繰り返す行動は「トレーニング」しているのと同じだから、私たちは少しずつスキルアップしていく。つまり、「スキルアップ=成功体験」を積んでいく過程で「できる感」(自己効力感・自己肯定感)を得て、私たちは「やる気」や「自信」と言う意志を持つようになる。
このように「やる気」「モチベーション」や「自信」といった前向きな意志は、「行動した結果、得られるもの」なので、最初から持っているわけではない。自ら行動して、作っていくものである。
自分を変えるための「変化の法則」
こうありたいと思い描いている自分に変わるためには、偶然性によって身につけた「行動」ではなく、自ら新しい経験を作り、戦略的・効果的に行動を変える必要がある。
まず「反応」というシグナルを受け取ったら「何をするのか」「何を言うのか」という行動にフォーカスする。大事なのは「これならやっても良い」と思える行動を選ぶこと、そして「できる」と思えるところまでハードルを下げることである。この「小さな成功体験=快」を積み重ねることが、変化への近道となる。そして、成功体験を積むためにも、戦略的に「良いフィードバック=快を得られる環境」を整える。
人の「快」のポイントは様々である。他人が選ぶ「快」ではなく、自分が満足を得られる「快」行動を選ばなければ、変われない。そこで必要になるのは「自分の人生の目的は何か」、つまり、変わることで、自分にはどんなベネフィットがあるのか、幸せに慣れるのかを明確にすることである。
人生の目的を明確にする時に必要になるのが「言葉にすること」である。ぼんやり頭に浮かんでいる思考は、言葉にすることで初めて、行動に移そうという明確な思考になる。
変われる方程式「GROWモデル」
どのように変わりたいかの課題は人によって違う。次のステップを踏めば、どんな課題を抱えていても変わっていける。
G(ゴール)=目的設定。「自分はどうなりたいか」を設定する。
↓
R(リアリティ)=現状分析。「自分は今、こんな状態だ」と分析する。
↓
O(オプション)=手段の選択。「目的を達成するのに必要な行動」を選択する。
↓
W(ウィル)=意志を持って行動。実際に行動する、継続する
この方程式を使うと、不安や怒りといった感情に振り回されずに、自分のことを客観的に分析し、具体的な行動につなげていくことができる。