独学の3階層
学びというのは、非日常的な場所やコンテンツの中だけで発生するものではなく、何気ない日々の中に転がっている。だからこそ、「良い学び方」は「良い生き方」につながっていく。そして、「どう学ぶか」に対する手がかりを得れば、目の前にある日常そのものが学びの場になる。
では、どう学ぶか。独学のためには「行為」「能力」「土台」という3階層の構造を理解し、実践し、身の回りにあるもの全てを学びへと転換していく。
独学のための行為(第1階層)
学びを深めていくために必要な行為は「疑問」「差分」「他者」という3つである。
①疑問
学びには「自分の内なる疑問に答えるために学ぶ」という根源的な役割がある。学びの出発地点には、答えを出したいという「問い」がある。独学で大事になってくるのは「最初に自分で問いを立てる」ことである。良い問いの条件は、その問いの答えを本気で知りたいかどうかということ。
疑問は意識しないと捕まえることはできない。目を凝らせば、知識の周囲に面白い疑問がついている。疑問に気づくためのコツは、知り得た知識から、次の4つのゾーンに視線をずらしてみることである。
- 対象×過去:それはどうしてこうなったのか?
- 対象×未来:それはこれからどうなる?
- 自分×過去:自分はどうしていたか?
- 自分×未来:自分はどうなる?
②差分
学びの本質は「経験の前後の差分」である。何かを学んだということは、その前後で知識や実技の習得など、何らかの変化があったということである。しかし、多くのケースでは、前後の差分のないものを「学び」と言ってしまっている。
差分を削り出すためには、次のステップで作業を行う。
- 素直に感じたこと(=感想)をアウトプットしてみる
- 「それっぽい一般論」(=既知)がないかチェックする
- 「自分だけの具体論」に変換する
「それっぽい一般論」は大抵、既知のものであるため差分にはならない。自分にとって何が新しい発見だったのかを突き詰めることが重要である。
③他者
他者という存在は学びを新たな次元に進化させてくれる。私たちは他者に伝えよう意識する時、自分のメッセージに磨きをかける。そこで、私たちの学びの内容は高度に編集され、結晶化されていく。また、他者が介在することで、スケジュールが設定されるからこそ、その逆算で学びの総量が定義される。だからこそ、その総量を踏まえたメリハリのある学びを獲得するという思考スタイルになる。
日常の中に何かの「疑問」を見つけてみる。その「疑問」に答えるべく動いてみたら、その動きの前後の「差分」を丁寧に抽出してみる。そして、その差分について「他者」と対話してみる。その対話からまた新しい「疑問」が生まれる。
このように、これらの行為のトライアングル中でサイクルを回していくことで、私たちの学びは高まっていく。
独学のための能力(第2階層)
「独学のトライアングル」の行為を継続的に実践していくためには、次の5つの筋肉を鍛える必要がある。
①自己批判筋
常に自分の考えはまだ深めることができるという意識を持ち、批判的に向き合うこと。「差分」や「疑問」を通じた独学は、この自己批判筋を最大限使うことによって、初めて意味のある学習となる。自己批判筋を鍛えるには「自分にない視点を持つ人だったら何と言うだろうか」という問いを向ける。
②保留筋
物事の判断をあえて決着させず、宙ぶらりんの状態に維持しておく。学びは後から少しずつ気づくケースが多いため、保留筋を使って「まだ意味がわからない状態」のままに記憶にとどめ続ける。保留筋を鍛えるには「複雑で意味不明なコンテンツに向き合う」ことに投じる時間を作る。
③抽象化筋
物事の本質部分を捉え、それ以外の部分は捨てる。抽象化筋を鍛えるには、一見違うもの同士の裏側に隠れた本質的な共通項を見つけることを日常的に行うことに尽きる。
④具体化筋
「その瞬間だけの違い」を明確に見極めて、その瞬間ごとの適切な対応をすること。抽象化筋を鍛えるには、似ていると見られるものの二者の間にある本質的な違いを見つける。
⑤表現筋
自分が考えていることを適切に表現できれば、他者からも良いフィードバックをもらうことができる。表現筋を鍛えるには、他者の優れた表現を徹底的にストックする。そして、ストックした表現を使ってみることが大切である。
独学のための土台(第3階層)
学びを継続的に行なっていくためには、自分が何を学んだのかを整理し、そして今後自分が何を学んでいくのかを定めていく「地図」が必要になる。この地図を「ラーニングパレット」と呼ぶ。
私たちのパレットには、過去の学びを通じて、既に多くの絵の具が揃っている。しかし、現時点で何色の絵の具があるのか、どんな配色の傾向があるのか、多くの人は無自覚である。そのため、まず過去の経験を振り返ることで、絵の具のラインナップを理解し、構造化していく。