気分の落ち込みの要因は思考だけではない
誰にでも気分が落ち込む日はある。しかし、落ち込みの頻度や程度は人によって違う。気分の落ち込みには内外の様々な要因が影響しているので、その要因がわかれば、望む方向に気分を変えることができる。
私たちは自分が思う以上に、感情に影響を及ぼすことができる。気分は変えられないものではなく、一時的に経験する感覚に過ぎない。気分の原因は常に脳にあるわけではない。原因は体の状態、人間関係、過去と現在、生活状態、ライフスタイルにもある。脳は、心拍数、呼吸、血圧、ホルモンといった体からの情報や五感からの情報、行動や考えのすべてを、過去に同じような状況でどう感じたかという記憶とつなぎ合わせて、今何が起きていて、それにどう対処すればいいかを推測する。その推測が時には感情や気分として感じられる。
思考、身体的感覚、感情、行動のすべてが影響しあって経験を生み出しているが、人はそれをひとまとめに経験する。その経験を個々の要素に分解するには練習が必要である。そうすれば、自分がどのような変化を起こせるかを理解しやすくなる。これらの要素は、自分で変えられる。脳と体の環境の間では常にフィードバックが起きているので、それを利用して感情に影響を与えることができる。
気分の落ち込みを理解するための最初の一歩は、経験の各側面を認識すること。この気づきは振り返ることから始まる。その日を振り返り、ある瞬間の経験を分解してみるといい。練習する内に、リアルタイムでそれらの側面に気付けるようになる。
気分が落ち込んだ時の思考の罠に気づく
思考と感情は影響し合う。気分が落ち込んでいる時に経験しがちな思考バイアスには次のようなものがある。
- マインドリーディング:他人の考えや感情について勝手な思い込みをする
- 過度の一般化:限られた出来事がすべてを表しているように思い込む
- 自己中心的な考え方:他者も自分と同じ見解や価値観を持っていると決めて、解釈する
- 感情的な推論:自分がそう感じるから、それが事実に違いないと思い込む
- 心のフィルター:自分の思い込みを裏付ける証拠を見つけようとする
- 〜すべき思考:毎日が失敗の連続のように思える無情で非現実的な期待
- 全か無かの思考:絶対的あるいは極端な思考パターン
ネガティブな考えが浮かぶのを止めることはできないが、それにどんなバイアスがかかっているのかを知り、自分の反応をコントロールすることはできる。今抱いている考えが、多くの考えの1つに過ぎないことを知ると、他の考えに心を開くことができる。
思考を俯瞰して、距離を置く
気分が落ち込んでいると、思考に心を乗っ取られることがある。脳は物事がうまくいっていないことを体から感じ取り、その理由をいくつも考え始める。気がつくと、頭の中に否定的で自己批判的な考えがいくつも浮かんでいる。それらの考えを受け入れると、既に落ち込んでいる気分がさらに落ち込む。
思考と、その気分への影響にうまく対処するには、それらと距離を置くことが必要とされる。そのための強力な能力が「メタ認知」だ。メタ認知は、思考から一歩離れて、その思考がどんなものであるかを思考する能力である。頭に浮かぶ思考に気づき、それがどのように感じられるかを観察する。マインドフルネスは、思考の観察方法を練習し、心の筋肉を強化するための素晴らしいツールである。これを活用すれば、自分の思考に気づき、それに執着せず、気持ちをどこに向けるかを慎重に選べるようになる。
気持ちを切り替えようとする時、頭の中だけでそれをするのは難しい。多くの人は体を動かすことで気持ちをうまく切り替える。立ち上がってその場から離れるとか、少しの間別のことをする、あるいは歩き回ったり、外へ出たり、何でもいいからできることをするといい。
基本的なことが大切である
落ち込んでいる時に最初に手を抜くのは日常生活だ。友人と疎遠になり、コーヒーをがぶ飲みし、眠れなくなり、運動もしなくなる。それはディフェンダーを1人ずつ退場させて、ゴールをガラ空きにするようなものだ。私たちはディフェンダーの力を過小評価し、ストレスにさらされたり気分が落ち込んだりすると、最初にディフェンダーを手放してしまう。しかし、科学は、ディフェンダーの重要性を裏付けている。
- 運動:運動には強い抗うつ作用がある。
- 睡眠:睡眠が足りないとほぼ確実に、気分が落ち込み、立ち直る自信が失われる。
- 栄養:どのような栄養を脳に与えるかが、どのように感じるかに影響する。
- 日課:日課は、メンタルヘルスとレジリエンスを高めるための強力なディフェンダーになる。
- 人とのつながり:良質な人間関係は、生涯を通じてメンタルヘルスを良好に保つツールになる。