リーダーシップの主役はリーダー本人ではない
リーダーシップとは、自分の存在によって他者をエンパワーすること。そしてその影響力が、自分が不在の状況でも続くようにすることだ。
リーダーの仕事は、周りのメンバーが最高の力を発揮できる環境をつくりだすことだ。それは、自分がそのチームを去ってからも、自分が残した文化として永続するようにしなければならない。
リーダーに求められる資質は、他者をエンパワーし、彼らの才能を解き放つ能力だ。効果的なリーダーになるには、まず自分の外に目を向けなければならない。「他者の経験に責任を持つ」という姿勢を身につけることが、エンパワメント・リーダーシップの核心になる。もちろん、コントロールできないこともある。大切なのは「他者のパフォーマンスが向上する環境をつくる能力こそが、リーダーシップの核心に他ならない」という考え方を受け入れることだ。
エンパワメント・リーダーシップとは
他者を導く環境はすべて「信頼」から始まる。信頼は円の中心に位置し、そこから外に向かうにつれて、エンパワーできる他者の数も増えていく。まずは「愛」を通して個人をエンパワーし、「帰属」を通してチーム、「戦略」を通して組織、そして「文化」を通してさらにその先までエンパワーの範囲を拡げる。
リーダーシップの最初の一歩は、自分の周りの人たちが飛躍する環境を整えるということだ。そのためには、高い基準を設けることと、深い献身の両方が必要になる。さらに多様性を内包するチームを率いるには、それぞれの違いを尊重し、誰もが独自の能力や考え方でチームに貢献できるようにすることがカギになる。これが帰属の真髄である。
信頼、愛、帰属という3つがエンパワメント・リーダーシップのコア・コンピタンスであり、これらを達成した人だけが卓越したリーダーになれる。
信頼
リーダーシップの定義が「他者をエンパワーすること」であるなら、そこに信頼関係が存在することは不可欠だ。人が誰かのリーダーシップを受け入れるのは、相手を信頼しているからだ。
人間が信頼するのは、次の3つの要素による。
- オーセンティシティ:本当の自分を出していると感じられる人
- ロジック:判断力や能力があてにできる人
- 共感:自分を気にかけてくれると感じられる人
信頼が失われるのは、大体においてこの内のどれかが崩れたことで説明できる。これら3要素の内、相手の立場になって、どの要素が揺らいでいたのかを考える。それぞれの信頼の揺らぎに対する処方箋は次の通り。
- オーセンティシティ:周りに求められている言葉を考えるのではなく、自分が本当に言いたいことを考える
- ロジック:自分の能力の範囲内でプレイする
- 共感:その場にいること
愛
リーダーが最も効果的に他者をエンパワーするには、「高い基準と深い献身」と呼ぶ資質を備えることが不可欠だ。リーダーの求める基準が高く、明確であれば、私たちは努力してその基準に到達しようとする。そして、リーダーに対する完全な信頼があれば、基準に到達する可能性はかなり高くなる。これは一種の愛のムチであり、厳しさと愛情に同等の重きが置かれている。
基準と献身マトリックスは、次の4つのマスに分けられ、大抵のリーダーは「忠誠」か「厳格」に入る。
- 正義:基準高い × 献身高い
- 厳格:基準高い × 献身低い
- 忠誠:基準低い × 献身高い
- 放置:基準低い × 献身低い
高い基準を求めながら、他者への献身も忘れないリーダーは稀な存在だが、私たちは意識してこの境地を目指さなければならない。
人間の成長を最も効果的に促したいのであれば、むしろ献身したいという自然な欲求を活用するのが一番だ。実践は簡単で、誰かがまさに自分の望むような行動をしていたら、ただそれを具体的に指摘し、心の底から褒めればいい。どの行動が素晴らしかったか具体的に伝えれば、相手もその行動を繰り返すことができる。
帰属
それぞれのメンバーが本当の自分らしさを出すことができる組織が勝利を収める。さらにそれで恩恵を受けるのはマイノリティに属するメンバーだけではない。個々のオーセンティシティが花開く包摂的な環境では、すべての人が恩恵を受けることができる。
包摂的なチームの構築は直感に従って行う。できるだけたくさんのことを同時に行うとよい。そして、できるだけ行動を早くする。とりあえず始めてしまえば勢いがついて、障害を乗り越える過程で、色々なことを学び、学習曲線を上昇させることができる。
多様な組織を構築し、維持するために必要なステップは次の通り。
- 多様な才能を引き寄せて選別する
- 成功するチャンスを平等に与える
- 厳密で透明なシステムを通して最高の人材を昇進させる
- 最高の人材を維持する