EVをハブとしたビジネス環境の変化
世界的なカーボンニュートラルの潮流の中で、EVを起点として、モビリティ領域のプレイヤーが新しくエネルギービジネスへ参入し、逆にエネルギー領域のプレイヤーがモビリティ関連ビジネスを始めるといった相互乗り入れが起きており、この領域の中で新たなサービスやソリューションが生まれつつある。この事態を「EVX(EVトランスフォーメーション)」と表現する。
EVXという新たな領域にカテゴライズされるビジネスは、EV開発・生産やインフラ整備だけではない。EV周辺のビジネスでは、欧州や中国が先行しているわけではなく、日本がこれまでに培ってきた技術力や繊細なサービス構築といったお家芸を活かせる領域である。先行企業はこういった領域において既に事業開発に取り組んでいる。但し、その多くは市場に投入されているEVの数が少ないために小規模な実証実験にならざるを得ず、社会実装のフェーズに進めずにいる。
EVXの10の事業領域
EVX市場において事業カテゴリの軸になるのは「モビリティ」と「エネルギー」である。そして、もう1つは「サービス供給」と「マネジメント」である。この4軸でEVXを俯瞰した時、現時点では10の事業カテゴリに分けられる。
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①EV+エネルギーセット販売
EVを自宅で充電するとなると電気代が高くなるケースが多い。そのため、ディーラーでは、自社専門の電力プランを用意して、EVとセット販売を行うビジネスモデルが登場している。
②EV導入サービス
ガソリン車からEVに入れ替えることで発生する課題に対するコンサルティング支援を行うサービス。
③EV × MaaS
MaaSという概念は、できるだけ便利で安く、モビリティをアズ・ア・サービス化していくこと。EV × MaaSにおいて最も注目すべきは、バッテリー価値である。カーシェアやオンデマンド交通など、MaaSで利用されている車両は、全てが常時稼働しているわけではない。この稼働していないEVのバッテリーを蓄電池として利用することができる。停車中のEVのバッテリーを束ねて電力需給の調整力として活用する方法が考えられる。
④BCP
BCP(事業継続計画)自体は新しいものではなく、災害などの緊急事態が発生した時のために備えようという概念である。ここにEVを活用しようという動きが出てきている。例えば、非常時にEVを電源として活用する方法である。EVがBCPにおいて注目を集める背景には、電源が移動するという利便性だけでなく、コストの問題もある。
⑤充電インフラ
政府は2030年までに急速充電器を3万基、普通充電器を12万基設置するという目標を立てている。しかし、現状の事業環境では、充電インフラの運用管理だけで収益化することは難しい。そのため他のビジネスを組み合わせるなど必要である。
⑥BaaS
BaaSとは、バッテリー・アズ・ア・サービス=バッテリーのサービス化ということ。バッテリーの劣化問題は、中古車価格の低下という問題にもつながっている。またバッテリーはEV価格の1/3を占め、EVが割高になっている原因にもなっている。
このような問題を解決するビジネスモデルとして中国で普及しつつあるのが、交換式バッテリーのBaaSモデルである。これは、車体とバッテリーの所有者が別という点に特徴がある。EVユーザーは、バッテリーをBaaS事業者へ利用料を支払いレンタルする形式をとる。
⑦EMS
EMS(エネルギーマネジメントシステム)とは、施設や工場、ビルなどで使用されているエネルギーに関するデータを収集・分析し、ムダを可視化した後に最適化してエネルギー消費のムダを省く取り組みである。
⑧VPP
VPP(バーチャルパワープラント)は、仮想発電所と言われている。天候によって発電量が左右される再エネは供給量を制御することができない。こうしたことを考慮して電力の需給バランスを意識する必要がある。そこで、新たなエネルギーリソースとして、太陽光発電や家庭用燃料電池などのコージェネレーション、蓄電池、EVなど、地域に分散してリソースが注目されている。これらをIoTを活用した高度なEMS技術で束ね、遠隔・統合制御することで、1つの発電所のように機能させることをVPPという。
⑨V2X
V2Xとは「Vehicle to ◯◯」という意味で、EVなどの電動車と何かをつなげることで生まれる価値のこと。V2Hは、V2Hシステムを介してEVと住宅で電気を融通し合えるという仕組みになる。
⑩EVフリート
法人や団体が所有する車両をフリートという。従来のフリート管理は、車両の現在位置や走行履歴、保険情報といった車両の管理がメインだった。これがEVにシフトした時には、エネルギー供給の調整が必要になる。