コンパッション 慈悲心を持つ勇気が人生を変える

発刊
2022年11月30日
ページ数
328ページ
読了目安
490分
推薦ポイント 10P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

心を整え、個人や社会の幸福を実現するプログラム
ダライ・ラマの通訳を務めてきた著者が協力して作ったスタンフォード大学のメンタルプログラムを紹介している一冊。
マインドフルネスと同じように、瞑想などを行いながら、他者に対する慈悲の心(コンパッション)を持つ訓練を通じて、個人や社会の幸福を実現しようとするもの。
利他研究をもとに、日々の生活の中で、簡単なエクササイズを取り入れることで、心の平穏を築くことができる内容になっています。

コンパッションとは

コンパッションとは広義において、他者が苦しんでいる時に私たちが寄せる関心の一種であり、その苦しみが取り除かれるべく行動したいと思う気持ちのことだ。慈悲を表す英語「コンパッション」の語源はラテン語で「ともに苦しむ」という意味だ。

慈悲は苦しみに対して怖れや反発ではなく、理解や忍耐、思いやりを示すという反応を起こす。慈悲は苦痛を伴う現実に対して私たちの心を開かせ、痛みの軽減を探ろうとする。慈悲は共感という感情と、思いやり、寛大さ、その他の利他的表現を体現する行動とを結びつける。

 

近年、人の性質や行動を理解する上で、慈悲心の占める位置を捉え直す運動が科学分野で増加している。慈悲の訓練に基づくセラピーは、社会恐怖症から低すぎる自己肯定感、PTSD、摂食障害まで多様な心身症の症状改善に効果を現している。そんな中で、宗教色のないスタンダードな慈悲の訓練のためのプログラムとして誕生したのが、スタンフォード大学の「コンパッション育成トレーニング」(CCT)だ。

ダライ・ラマは以前こんなことを言った。良い食事と適度な運動が健康な身体には不可欠だと世界の人々が知っているように、いつの日か、健全な精神と幸福な人生にはメンタルケアと訓練が不可欠だと世界が気づく日が来るだろうと。

 

コンパッションは私たち人類の基本的な性質の根幹をなすものだ。私たちの中にある慈悲心を見出し、育み、自分自身や他者、周囲の世界とつながることは、個人としての幸福と社会の繁栄のカギとなる。

 

コンパッション育成トレーニング

①意図を動機に変える

コンパッション・トレーニングでは、明確な意図の設定と呼ばれるワークからすべてのセッションが始まる。これはある種の導入プロセスとして、伝統的チベット瞑想を取り入れた静観のワークで、自らの心の奥にある願望を認識し、そこから意図や動機を明確にする。このようにして自らを確認してから、思考や感情となる一連の考え方を組み立てていく。

同義語のように使われる意図と動機には重要が違いがある。それは熟慮の末か否かという点だ。意図とは常に、熟慮の末の意識的な目標を公言するものだ。長期的視野には意図が不可欠である。

  • 意図を設定する:「私が心から大切にしているものとは何だろう?」という質問をじっくり考える
  • 献身する:1日の終わりに、1日の始めと終わりでどれほどの一致があったかを確認する

 

②意識を集中することで軌道に乗る

次のステップは、深い思考を取り入れるための3つのスキルを育成する。第一に、心を鎮めることを学ぶ。第二に、意識の焦点を集めることで集中力を学ぶ。第三に、気づきを深め、自らの思考、感情、行動が起きるたび、それに巻き込まれることなく観察できるような、リラックスした開放的な心の状態を訓練する。これら3つのスキル同時に使うことで相乗効果が生まれる。

これら心を整える過程で、自分自身や他者のニーズや痛みを含め、すべての経験を受け止める平常心や穏やかで地に足のついた開かれた心を育成する。誰かに対してコンパッションの心を抱くのに、これらのスキルは必要ないがそれを偶発的なもので終わらせないためにスキルが必要になる。

  • 深い呼吸:落ち着いて整った呼吸を続ける
  • 広大な心:自分の心は何もない広大な空間で、どこまで行っても境界線のない広大無辺なものだと想像する
  • マインドフルな呼吸による集中:呼吸の感覚に意識を向け、心の錨を下ろすため、一点に意識の焦点を定める
  • メタ認知:呼吸に向けていた注目を解き、今ある状態への気づきに移行する。ただシンプルに観察する

 

③自己中心の牢獄から脱出する

誰かを重要視する時、その人のことを気にかけるようになり、その結果その人の安全や幸福により関心を抱くようになる。注意を払うという行為が、その人を気遣うという経験と不可欠なつながりを持つのはこのためだ。

このステップでは、誰か大切な人に対する愛情を想起する訓練をする。手始めに大切な存在となっている人物を選び、その人への感情を確認できたら、対象となる人をどんどん増やしていく。そして最終的にはすべての生きとし生けるものに対する愛情を抱く訓練をする。

  • 慈愛瞑想:愛する存在のことを考え続ける。その人の幸福を想い、相手の幸福、喜びが実現することを願う
  • 慈悲瞑想:苦境にある相手を想い「あなたが苦しみから解放されますように」と唱えることを繰り返す

 

④自分自身をいたわる

慈愛・慈悲の実践を、頭の中で自分に対して築いていく。自分自身の苦しみやニーズと慈悲深く向き合う。自分への思いやりの訓練では「自分が直面する困難に対して拒絶や自己憐憫の代わりに、もっとオープンな心と受容の姿勢で受け止めると、どんな気持ちになるだろう?」と質問を投げかける。

  • 自分を赦す:過去の行為の中で自分を赦せずにいることを想起し、その背後にある正当なニーズの存在を考える
  • 自分を受け入れる:慈しみのイメージを心の中で思い浮かべる

 

⑤気づかいの輪を拡げる

自分と同じように、人々は皆幸せを望み、苦痛を望まないという基本的な真実を掘り下げていく。慈悲の対象を、愛する人々に始まり、自分自身、見知らぬ人々、苦手な人々と対象の輪を拡大し、すべての人々へと至る。

  • 同胞意識を育成する:自分が愛する人物が自分の真の幸せを願っていると感じることが簡単だと気づく
  • 他の人に感謝する:他のすべての人も、幸福を切望し、苦痛を避けたいと願っていることを心に刻む
  • 気づかいの輪を拡大する:すべての生きとし生けるものが苦痛から解放されることを心から願う