ヒット曲とは
楽曲がヒットするかどうかは、単純に言えば「大勢の人がその音源を繰り返し何度も聴きたくなるかどうか」にかかっている。言い換えれば「ヒット曲は再生数によって認定」される。
以前からポップミュージックのヒット曲を生み出すメディアの中心は、常にラジオやテレビだった。そのため「ヒット曲」となる作品は、1時間に及ぶクラシックの交響曲や12分間の即興ジャズではなく、2分30秒〜5分程度で全編を通して聴くことのできる曲、さらには30秒から1分程度聴くだけでも、その曲の持ち味が充分に味わえる楽曲ということになる。
最初の数秒で人々の注意を引きつけ、3分間聴き続けても飽きさせない。聴き終わってからもまた聴きたいと思わせる。ダウンロードしたり、アルバムを買ったりしたくなる。大勢の人が何度も繰り返し聴きたいと感じる曲がヒット曲である。
ヒット曲には共通点がある
音楽の仕組みをしっかり見ていくと、実はヒット曲には共通点が圧倒的に多い。メロディに使うスケール(音階)の音が2、3つ違っていても大部分の音は共通していて、メロディの基本的な表現の仕組みは、どのアーティストの曲でも同じである。
1曲に使われるコードも、構成音が2つだけのロックコードもあれば構成音が7つもあるジャズコードもあり、ジャンルによってコードの数が多かったり、少なかったりして、異なる表現ニュアンスは複数あるが、無数というほどではない。ジャンルが違っても、実は基本的なコード進行は同じということがよくある。
そして、何よりリズムに関する共通点は多い。速いテンポで盛り上がったり、ゆっくりなテンポで落ち着いたり、基本となる表現性はどの音楽でも同様である。
ヒット曲が持つ4つの条件
J-POPも含め、ジャンル、国、時代と関係なく、大勢のリスナーたちに愛されるヒット曲の音楽は、次の4つの条件を満たしている。
①生命力(LIFE)
常に危険と隣り合わせの自然環境で進化してきた人類は、生き物っぽい存在感に反射的に注意を引かれる。生き物の気配を持つ音に自動的に耳を傾ける。ヒット曲はまずリスナーの注意をひくことが大事なので、音楽の要素には生命力が必要である。
音楽には生き物らしさのある表現と、そうでない表現がある。はみ出すようなメロディのサプライズや、意外性のあるコードチェンジは、リスナーの注意をひく。
打ち込みのベースやドラムがほぼコピー&ペーストされている曲でも、それらが動いたり止まったり、フィルターやエフェクターによっていろいろな音色を出したり、同時に鳴っている他の楽器や歌の音色とフレーズとの重なりを変化させることによって、全体のサウンドが圧倒されるほどの生命力を持っている。
②魅力(APPEAL)
ヒット曲になるには、予測不能な意外性や新鮮さだけでなく、大勢のリスナーが安心して聴くことができ、思わず近づきたくなる魅力が必要である。ヒット曲の魅力は、そのジャンルのイメージからもたらされるだけでなく、作詞作曲、編曲と演奏、録音の技術まで、多くの実際的なテクニックを駆使して作り上げられる。
数秒間同じスケールに含まれる音が鳴り続けると、リスナーはその響きに慣れて、スケールの音に基づいたメロディを聴きやすいと感じる。また、メロディやコード進行、リズムのそれぞれにわかりやすいパターンや馴染みやすい繰り返しがあると、リスナーはさらに安心して聴くことができる。
③一体感(IMMERSION)
ヒット曲には、多くのリスナーが聴くだけでなく、そのストーリーに関心を持って、聴きながら歌詞と音楽の表現に共感することができ、曲の世界に入り込んでいる感覚になるという効果がある。そこには様々なレベルと種類がある。
曲に合わせてダンスをしている時はもちろん、体を動かさなくてもリズムを感じて、グルーヴに乗ることも曲との一体化である。キャッチーなメロディを覚えて、そのメロディが頭の中で「鳴る」状態も曲と一体化しているということになる。明るいコードから寂しげなコードへとハーモニーが変化する時に、切なさを実感するのも曲との一体化である。また、音楽表現と一緒にリスナーの気持ちが上がったり、落ち着いたり、感動を覚えることが、曲と一体化するということである。
こうした一体化を感じさせる最も基本的で重要なのはリズムの仕組みである。
④恩恵(REWARD)
たくさんの人に繰り返し聞いてもらうために欠かせないのが恩恵である。楽しくなりたい気分の時に明るいアップテンポの曲を聴いて、実際に元気が出て盛り上がった、というような感覚こそがヒット曲がもたらす恩恵である。反対に泣きたい気分の時に感動的な曲を聴いて、実際に曲が泣かせてくれたら、それも恩恵である。
これらの恩恵は歌詞の力からも得られるが、メロディやコード進行、リズムなどの音楽的な仕組みによってももたらされる。