PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

発刊
2019年3月15日
ページ数
320ページ
読了目安
478分
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ピクサーはいかにして生き残り成功することができたのか
事業に行き詰まり、スティーブ・ジョブズの資金援助によって辛うじて生き残っていたピクサーを立て直したピクサー元CFOが語る舞台裏。スティーブ・ジョブズと共に歩んだ事業計画策定から、IPO、ディズニーへの売却までのピクサーの成功物語の裏側。

進むべき道さえ見えていないピクサー

ピクサーがルーカスフィルムからスピンアウトされた時、スティーブ・ジョブズは、ハードウェア会社を買ったつもりだった。あの頃は、ピクサーはハイエンドの画像処理コンピューターを開発していた。アニメーションは、その技術を見てもらうためのものに過ぎなかった。でも、ハードウェア部門は1991年に閉鎖となった。

ピクサーには、既に5000万ドル近く投資されていたが、進むべき道さえ見えていない。毎月オーナーであるスティーブに個人小切手を切ってもらわなければ給料も払えない状況だった。成果がほとんどあがっていないどころか、スティーブでさえ、毎年垂れ流される何百万ドルもの赤字を穴埋めするのはいい加減にやめたいと言うだけで、どういう会社にしたいのかはっきり語れない状況だった。

絶望的なピクサーの事業

ピクサーの事業は、写真に引けを取らない画質のコンピューターイメージを生成するレンダーマンソフトウェア、コマーシャルアニメーション、短編アニメーション、そして『トイ・ストーリー』というコードネームの長編映画と4本の柱がある。特許もいくつか所有していた。商売になる戦略があるとすれば、このあたりのどれか、あるいはその組み合わせになるはずだった。

レンダーマンは映画の特殊効果で使われるが、50社しか顧客と言えるところがない小さな市場だった。売れる年には千本ぐらい売れるが、一本3000ドルとしても300万ドルだった。

コマーシャル用アニメーション制作は、仕事が散発的でいつ入るかわからないし、予算はいつもありえないほど厳しい。30秒のアニメーションでも、3〜4人のチームで3ヶ月もかかるし、12万5000ドルほども費用がかかる。利益などごくわずかで将来性がなかった。

短編アニメーションはいくつも賞を受けるなど好評で、ピクサーを有名にした主因の1つである。だが短編アニメーションは、技術や物語構築のプロセスを試し、開発するために制作されるものだから、お金にならない。展示会や映画祭で上映されたり、映画館の本編の前に上映されたりするが、お金は一銭も入らない。なのに制作費は凄まじくかさむ。市場そのものがないのだ。

ピクサーの事業の中で『トイ・ストーリー』はわからないことだらけだった。4年近くも前の1991年にディズニーと合意した制作契約を調べていった。契約の対象は映画が3本で、3本目が公開された6ヶ月後に契約が終了する取り決めとなっている。最初の映画『トイ・ストーリー』は4年とちょっとで公開することを目標としている。2、3作目も同じ期間が必要だとすると、あと9年間は契約に縛られる。しかも契約には、独占条項があり、ディズニーの仕事以外にできないようになっていた。制作費用は、ディズニーが負担し、その上で映画の収益から一定の割合がピクサーに支払われる。しかし、最終的にピクサーの懐に入るのは10%にも満たない。『美女と野獣』や『アラジン』『ライオン・キング』といったディズニー史上トップクラスの興行成績を上げても、ピクサーは年間400万ドル程度の儲けにしかならない計算だった。

ピクサーの生き残り策

ピクサーが自立するためには、まず映画からピクサーが得る取り分を増やさなければならない。最低でも収益の半分。そのために制作費用の大半を自前でまかなう必要がある。株式を公開することで、制作費用をまかない、映画スタジオとして自立する資金を調達する。そして、制作頻度を上げ、ピクサーをブランド化する。

計画で要となるのは資金の調達だった。そのために株式公開しなければならなかった。