地域創生DX オンライン化がつなぐ地域発コンテンツの可能性

発刊
2022年11月26日
ページ数
208ページ
読了目安
347分
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地方の観光業の未来
地域のコンテンツをもとに観光産業を活性化させることを研究する著者が、コロナ禍で課題が浮き彫りになった地方の観光業の未来の可能性について書いた一冊。
オンライン観光、コンテンツツーリズム、メタバース、オンラインイベントなど、新しい観光の形の事例や考え方が紹介されています。

地方の観光産業の課題

観光白書によるとコロナ感染拡大前の日本人国内旅行消費額は約20兆円前後で推移していた。これは外国人旅行者による消費額5兆円弱に比べても大きなボリュームを占める。国内旅行者については可処分所得の高い都市部の富裕層が、地方に富を還流させていたという見方ができる。

コロナ禍が明らかにしたのは、地方経済がいかに観光で支えられていたか、ということである。観光客が現地を訪れなければ経済活動がほとんど止まってしまう観光産業のあり方に課題があることが明らかになった。

 

そもそも国内観光で都市部から地方へ富が移転すると言っても、インバウンド消費に比較して国益に直接つながっているとは言えない。地方が限られたパイである都市部の富裕層を観光客として奪い合う競争は、短期的な経済の活性化につながっても、あまり未来のある戦いではない。コロナ禍を契機にどのようなパラダイムシフトができるのか、考えるべき時期に来ている。

 

その場所に行って様々な観光資源を体験することが観光の醍醐味であるが、例えば1回訪問して気に入った場所が、何らかの体験価値をオンラインで提供し、「ファン」がそれを購入することでその地域を支援するといった動きはもっと拡がっても良かったのではないか。

エンターテインメント産業ではライブ会場など「その場に来てもらわなければならない」という前提を覆すような、オンラインを活用した新たな可能性を探る試みが続いている。地域産業を支える存在となった観光産業が、そうなるためには何が必要なのか検討しなければならない。

 

オンライン観光に必要なこと

観光もオンライン化できないか、様々な模索が続いている。VR空間に観光地を再現して、その中を旅してもらい消費も促していく、という取り組みも生まれた。ANAが2021年5月に発表した「SKY WHALE」などはその代表例である。

 

観光地のホスピタリティは、観光地に存在する様々な観光資源とそれらに関連した人々によって複合的に成立するもので、オンライン空間で全く同じような体験を提供することは、面白いゲームを提供する以上に難しい。バーチャル空間を旅してもらうタイプのオンライン観光は、ゲームとしての楽しさを追求したオンラインゲームに敵わず、幅広い層から指示を得るのは難しいのではないか。

 

もう少しハードルを下げて「旅ができないのであれば、写真や動画で少しでも気分を味わってもらおう」という取り組みであれば、様々なアプローチが可能である。

とは言え、様々なコンテンツを用意しても、その地域に関心を持つ人へのリーチを獲得する必要がある。これは大規模な広告を仕掛けるなどしなければ、一朝一夕に獲得できない。そのため、日常的にSNSを活用し、地域を訪れた人々とつながり続け、コミュニティを形成、維持していくといった普段からの蓄積による取り組みが求められる。

 

コンテンツツーリズムの可能性

名所旧跡を巡る従来型の観光に対して、コンテンツツーリズムがもたらす可能性は大きい。注目しているのが「メタ観光」という新しい考え方である。メタ観光とは、ツーリズムのレイヤーに位置情報で縦串を刺し、一体的に運用しようというものである。その一例として「すみだメタ観光マップ」が製作されている。

オープンソース地図であるOpenStreetMapを用いて一般のユーザーが中心となって制作されたこの地図では、例えば「忠臣蔵ゆかりの地」「ブラタモリ」など多数のレイヤーが用意されており、それらを切り替えることができる。

これをコンテンツ軸、ダークツーリズム軸などにピボットさせれば、いわゆる観光ガイド本のようなテーマ性を持った観光案内になる。ポイントは、位置情報という一意のデジタルデータでそれらの情報が紐づけられており、誰でもその参照と編集が可能であるという点である。

これにデジタルツインと呼ばれる、現実空間の生き写しとなるメタバースが並行して存在していくことが今後予想される。

 

観光のDX、「メタ観光」という考え方は、いずれも従来の名所旧跡、特産品に留まらず、体験価値を提供できるコンテンツが鍵を握る。アニメや映画などのロケ地、モデルとなった場所が事例として取り上げられることが多いが、必ずしもマスメディア由来のコンテンツである必要はなく、地域自らが生み出した、メディアの規模的には小さなコンテンツも十分にその材料になり得る。

 

コンテンツが紹介する物語を手がかりに、その舞台・モデルとなった土地を訪れ、その土地の魅力に触れながら、そこに暮らす人々との交流が生まれ、中にはそれが持続・発展した結果「関係」となり、さらには移住することにまで至る場合もある。地域活性化の1つのキーワードである関係人口を増やす上でも、コンテンツツーリズムは大きな役割を果たすことが期待されている。