行動を変えるのに理想的なタイミングを利用する
行動変容を成功させるにはタイミングが大きなカギを握る。自分や他人の行動を変えるには、足を引っ張る古い習慣がない「フレッシュスタート(新たなスタート)」の状態から始めれば、有利な立場に立てる。フレッシュスタートは、新たな始まりを想起させるカレンダー上の日付(新しい年、季節、月、週)でもいいし、誕生日や記念日でもいい。人生の節目となる出来事がフレッシュスタートになることもある。
人は時間をひと繋がりのものとして認識するのではなく、人生を様々なエピソードに分けて捉え、日常の中の目立つ出来事、いわば「章」からなる、浮き沈みのある物語として認識する傾向にある。新年、誕生日、引っ越し、就職など、新たな章が始まる時は、自分の人となりや自分が抱えている問題などを表現するラベルが変化し、それと共に自分も変わらざるを得なくなる瞬間である。このラベルが、私たちの行動に大きな影響を及ぼす。つまり、自分を変えたいと思った時、環境を変えることによって、古い生活習慣や考え方を断ち切りやすくすることができる。
但し、誰もがフレッシュスタートから同じように利益を得るわけではない。順調な時の中断は、挫折を招くことがある。フレッシュスタートは変化を起こすのに役立つ一方で、既にうまくいっている生活習慣にとっては邪魔者になり得る。
衝動性を逆に利用する
行動変容への最大の障害は「現在バイアス(衝動性)」である。人は、今すぐ満足感が得られる誘惑を、遠い先に得られるもっと大きな見返りよりも優先してしまう。
この問題を解決するには、今すぐ満足が得られないことの辛さを自覚し、活動に「甘み」を加えることだ。目標追求に「楽しいところ」を加え、目先の楽しみを得られるようにすれば、現在バイアスを克服できる。私たちは、長期的な目標を目指す時、この「甘み」を加えることをめったにしない。これから耐えなくてはならない辛さについて考えたり、それを和らげようとしたりせずに、いきなり行動を変えようとして失敗する。
目標追求に目先の満足を加える方法には以下のものがある。
- 誘惑バンドル:有益だが億劫なことをする時だけ、うしろめたい楽しみに浸ってよいことにする
- ゲーミフィケーション:活動に象徴的な報酬や競争感覚、スコアボードなどのゲーム的な要素を取り入れる
コミットメントで先延ばしを避ける
「現在バイアス」のせいで、人は長い目で見て自分のためになることを先延ばしにしがちである。この問題の有効な解決策は、誘惑に先回りして、この悪循環を止めるような「コミットメント装置」をつくることだ。コミットメント装置とは、より大きな目標を達成するために自分の自由を制限する仕掛けをいう。「いつまでに仕上げます」と上司に宣言するのは、その仕事をやり遂げるためのコミットメント装置である。
目先の誘惑に突進している時ではなく、自分のためになることを冷静に考えられる時に行った選択に自分を縛り付けることによって、より良い行動を取ることができるし、その後も誘惑を避け続けることができる。
目標達成の助けとして自分に課すコストには「ゆるいペナルティ」(目標や締切を公に宣言するなど)もあれば、「きついペナルティ」(失敗したらお金を没収されるなど)もある。ペナルティや誓約がゆるいほど行動変容を促す効果は下がるが、その反面受け入れやすくなる。
「合図付きの計画」で動ける仕組みをつくる
最近の研究によれば、平均的な大人は1日に暗証番号から雑用、結婚記念日にいたるまで3つのことを忘れるという。特に多くの仕事を一度にこなそうとすればするほど、もの忘れはよく起こる。そして平均的な人が常に把握していなくてはならない仕事や雑事は、驚異的な数に上る。
カレンダーに書き込んだ予定さえ忘れることがある。この種のミスを防止するための明白な方法の1つは、やるべきことを思い出させる「リマインダー」の仕組みをつくることだ。リマインダーに効果があることは研究でも示されている。だが役に立つとは言え、リマインダーには重大な限界がある。
すぐに対策を取れるタイミングで与えられれば、リマインダーは大きな効果を発揮する。しかし、タイミングを間違えると効果がずっと低くなる。
忘れてしまうのを防ぐもう1つの方法が、合図付きの計画だ。合図付きの計画とは、計画に合図を結びつけたもので、「◯◯をしたら、××をする」という形をとる。合図は、特定の「時間」や「場所」、目に入るであろう「もの」など、記憶の引き金になるものなら何でもいい。意表をつく合図を使うのが一番効果的である。