チンプ・パラドックスとは
人の心の中は、主に3つの領域が形成しており、それぞれを以下のように名付ける。
- 前頭葉:人間
- 辺縁系:チンパンジー
- 頭頂葉:コンピュータ
この3つの領域は協調して働くこともあるが、度々対立して主導権を握ろうとする。そして、その争いでは、チンパンジーが勝つことが多い。
前頭葉(人間)と辺縁系(チンパンジー)は別々に成長し、その後互いに自己紹介して関係を築く。人間とチンパンジーは独立した個性を持ち、思考法も、懸案事項も、行動パターンも異なる。ほとんどの場合、両者の意見は一致せず、問題が発生してしまう。
チンパンジーは誰もが持つ感情装置で、理性から独立して働き、決定を下す。感情や感覚を司り、建設的にもなれば破壊的にもなる。良い悪いの問題ではなく、単にチンパンジーなのだ。「チンプ・パラドックス」とは、そのチンパンジーが最良の友でありながら最悪の敵にもなり得ることを指している。
チンパンジーとの付き合いは、犬を飼うのに似ている。犬の性質は変えられなくても、きちんとしつける責任がある。成功と幸せを手にする秘訣は、チンパンジーとの付き合い方を学ぶことだ。そのためには、チンパンジーがどう行動し、なぜそのように考えて動くのかを理解する必要がある。さらに、自分の中の人間を理解し、人間とチンパンジーを混同しないことも大切である。
2つの思考法と行動パターン
チンパンジーは、その情報を「感情」と「印象」で解釈する。何か起きていると感じると、「感情的思考」で状況を理解し、行動計画を立てる。それに対して人間は、「事実を探り、真実を見極める」ことで、得た情報を解釈する。その後、「論理的思考」で情報をまとめ、行動計画を立てる。
・感情的思考の特徴
- 結論に飛びつく
- 白と黒で考える
- 被害妄想
- 悲観的
- 不合理
- 感情的な判断
・論理的思考の特徴
- 確かな根拠
- 合理的
- 状況に応じた広い視野
- グレーの許容とバランスのとれた判断
チンパンジーは強力なので、思考と行動を支配してしまうこともしばしばである。だが、それを承知の上でチンパンジーを管理できるようになれば、思考を制御し、論理的に行動できるようになる。
チンパンジーの懸案は「生き残り」である。一方、人間の懸案は「自己実現」である。自己実現とは、自分がなりたい人物になり、望んでいることを成し遂げることだ。チンパンジーと人間の懸案の違いを考えると、両者が頻繁に衝突することがわかる。
チンパンジーは次世代が生まれることを望み、少なくとも次世代を生み出すことにつながるいくつかの衝動(性衝動や親としての衝動など)を重視する。またそのために生き残ろうとする。時と場合によって変わるが、交際相手を魅了し、縄張りを作り、食べ物を探し、住まいを見つけるといったことも懸案である。
人間が人生の懸案と感じるものは多様だ。ごく基本的な生活ができればそれでよしという人もいれば、他者を助けることで自己実現を果たし、満足を得ようとする人もいる。自己実現は、様々な方法で達成できる。
チンパンジーと人間は異なる懸案、異なる原則をもとに行動する。つまり、チンパンジーはジャングルの掟に従い、強い衝動と本能によって行動するのに対し、人間は社会の法に従い、倫理と道徳の強い衝動、典型的には「良心」によって動く。
・ジャングル中枢に基づいた行動の特徴
- 本能
- 衝動
- 攻撃に弱い
- 男性と女性で違う
- ボディランゲージ
・人間的中枢の行動上の特徴
- 誠実
- 思いやり
- 良心
- 法律遵守
- 自制
- 目的意識
- 達成感と満足感
衝動的で感情的なチンパンジーをうまく管理することは、人生における成功を左右する極めて大きな要素の1つである。
チンパンジーを管理するための方法
Step1:人間またはチンパンジーのどちらが主導権を握っているかを認識する。
これはごく単純な質問「私はこれを望んでいるのか?」で識別できる。自分が望まない感覚、思考、行動が生じた場合、チンパンジーに乗っ取られている。
Step2:脳の手順を理解し、受け入れる。
どんな行動をとるにしろ、すべての情報はまずチンパンジーに入り、心配すべきことがあるかもまずチンパンジーが判断する。心配事があればチンパンジーが自ら決断を下す。意志の力でチンパンジーの根本的な衝動は変えられない。必要なのは、管理するための計画である。
Step3:チンパンジーをしつけ、管理し、最適な結果を得る。
チンパンジーへの対処には、以下の2つの局面がある。
- 育成
管理する前に欲求を満たしておけば話を聞かせることができるようになる。育てる際のポイントは、自分が考える重要人物からの賞賛と承認を得ることである。 - 管理する
チンパンジーが何かに興奮して腹を立てているなら、まずその感情と意見を吐き出させる。その場合、その場所には注意する必要がある。次に説得するために、事実、真実、論理を使う。
訓練を重ね、スキルを向上させれば、チンパンジーではなく人間が主導権を握るようになる。