成功する日本企業には「共通の本質」がある 「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学

発刊
2019年3月27日
ページ数
264ページ
読了目安
321分
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組織が不条理な判断を回避するための方法論
環境の変化に対応し、自己変革する組織の能力「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学を解説しながら、日本企業の進むべき道を説く一冊。
「両利きの経営」とダイナミック・ケイパビリティの関係性なども解説しながら、経営学の中心テーマを紹介しています。

2つの能力

企業のケイパビリティ(能力)には次の2つの種類がある。

①オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)
②ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革能力)

ビジネス環境が安定している時、企業は利益最大化を目指してより効率的に活動しようとする。この時、企業内の資産や資源をより効率的に扱う企業の通常能力が「オーディナリー・ケイパビリティ」と呼ばれる。

長期的には、企業をめぐるビジネス環境は大きく変化する。変化の激しい状況で求められる能力が「ダイナミック・ケイパビリティ」である。その能力は「企業が環境の変化を感知し、そこに新ビジネスの機会を見出し、そして既存の知識、人財、資産およびオーディナリー・ケイパビリティを再構成・再配置・再編成する能力」のことである。

人や組織は合理的に失敗する

ダイナミック・ケイパビリティは、日本企業は陥りやすい「不条理」を回避できる。組織や人間は合理的に失敗することがあり、これを不条理と呼ぶ。陥りやすい不条理は3つ。

①個別合理的全体非合理
全体合理性と個別合理性が一致しない時、個々人は全体合理性を捨てて、個別合理性を追求し、その結果、全体が非効率となって合理的に失敗するという不条理。

②効率的不正
正当性(倫理性)と効率性が一致しない時、個々人は正当性を捨て効率性を追求し、その結果、不正となって合理的に失敗するという不条理。

③短期合理的長期非合理
長期的帰結と短期的帰結が一致しない時、個々人は長期的帰結を捨て短期的帰結を追求し、その結果、長期的に失敗するという不条理。

パラダイムの不条理

成功を経験すると、真面目な日本企業はさらに努力を重ね、パラダイム(思考の枠組み)を精緻化し続ける。それゆえ、環境が大きく変化した時でも、日本企業はパラダイムを変革することなく、既存のパラダイムで真面目に変化に対応しようとする。

しかし、これでは大きな環境の変化にタイムリーに適応することはできない。そのため、日本企業は真面目に失敗する。これを解決するには2つの対処法がある。

①取引コストを節約する方法
世の中には見えない人間関係上の取引コストが存在していることを認識する必要がある。この取引コストを考慮しつつ、個々人が損得計算して行動すると、組織は不条理に陥るメカニズムを理解する必要がある。この取引コストを節約する様々な制度や仕組みを事前に形成し、個々人が行う損得計算の結果を変える必要がある。

②付加価値を高める方法(ダイナミック・ケイパビリティ)
二次的な不条理を回避するには、付加価値で不条理を回避する「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要となる。環境の変化に対応して新しい「知の探索」を行い、既存の技術や資産をしなやかに再構成、再配置、再利用して、絶えず環境に適応して、収入や売上を増加させる。これによって個々人が行う損得計算の結果が変わる。

柔軟な組織がダイナミック・ケイパビリティを持つ

強いダイナミック・ケイパビリティを持つ組織は「柔軟な組織」であると言える。その特徴は以下の通り。

①職務権限を職務や地位に帰属させて、そこに人間を割り振る
②職務権限が曖昧に規定されている
③メンバーが特定の職務権限を保有する期間が短い
④職務権限の配分が私的に正当化されている

このような組織は、安定した状態であっても効率性を追求できない一方で、強いダイナミック・ケイパビリティを持つ。元々職務権限体系が曖昧なため、組織変革をめぐるコストが小さく、新しい生産システムや生産技術を導入しやすい構造となっているからである。

参考文献・紹介書籍