負のショックから立ち直る力
「レジリエンス」とは負のショックから立ち直る力、復元力を意味する言葉で、抵抗して耐える力を意味する「ロバストレス」とは異なる。時には、ロバストネスが前進のための最善の方法にならないこともある。レジリエンスの本質は、嵐が来ても曲がるけど折れない葦のように元に戻ることにある。
ロバストネスはレジリエンスとは違い、ショックに適応することなく抵抗する能力を要とする。ロバストネスには、様々なショックに耐えるのに十分な冗長性とバッファが備わっているが、臨界点に到達した時に倒壊してしまう。
一方、レジリエンスは、ショックを受けても弾力的に回復する。レジリエンスがあれば、より多くの偶発事象をカバーでき、ロバストネスの臨界点を突き破るようなショックにも耐えられる。レジリエンスはコストを低く抑えるため、わずかに「たわむ」ことを伴うもので、これこそがレジリエンスの大前提である。従って、レジリエンスを育むと経済性が増す。
持続可能性にもレジリエンスは欠かせない。レジリエンスはショックによって打撃を受けた人や社会が崖から落ちるのを防ぐ。但し、レジリエンスだけでは持続可能性を保証するのに十分ではない。負のショックのたびにトレンドラインに跳ね返る回復力があるとしても、緩やかな下降トレンドは元に戻せない。平均的なトレンドラインが負の傾向にないことも必要になる。
レジリエンス戦略
レジリエンスを達成するための戦略は2つの柱からなる。
- 最初のショックを封じ込めること
- 復元の条件を作り出すこと
この2本の柱を並行して追求することが大切になる。レジリエンスを目指すことは、あらゆるリスクの回避を意味するものではない。レジリエンスを発揮できるリスクを選択し、レジリエンスを発揮できないリスクを回避することを意味する。
つまり、罠やフィードバック・ループ、臨界点などのレジリエンス破壊要因がないリスクのみを選択することだ。そして、代替可能化や多様化といったレジリエンスを高める手段を増やす活動を行う。
レジリエンスを高めるもの
レジリエンスを養い、ショックに柔軟に適応および対応する能力を高めるには、以下の手段がある。
①順応性、柔軟性、変化能力
新しい環境に順応し、俊敏であり、臨機応変に意欲を持っていることが必要である。
②代替可能性
変化に対しての切り替えコストが低いほど、レジリエンスは高くなる。
③多様性と開かれた心
多様性は、レジリエンスとロバストネスの両方を高める働きをする。多様性があれば分散が可能になる。また、多様性のある文化は創造性や独創的な考え方を宿している場合が多い。
④バッファと冗長性
在庫は、レジリエンス獲得の過程において追加的なバッファになる。必要に応じて在庫を調整する柔軟な在庫管理はレジリエンスを高め、必要なバッファを削減することにつながる。レジリエンスのバッファは、柔軟性があり、様々な状況への対応に使用できる。
⑤リスクへの暴露
時折、小さなショックを経験することは、ショックへの対応方法を学ぶ機会になる。
レジリエンスを壊すもの
レジリエンスを大きく損なうものには以下のものがある。
①罠
線が罠に触れた瞬間は後戻りできない場所に到達した瞬間で、回復の可能性はなくなる。つまり、罠はレジリエンスを永久に損なう。
②フィードバック・ループ
誰かが負のショックにさらされた時にとる対応が不安定化のフィードバック・ループを生み、それが全体的なレジリエンスを弱める恐れがある。人々が互いに外部性を押し付け合い、それが積もり積もって社会の均衡やレジリエンスの劣化をもたらすかもしれない。
③臨界点
臨界点は、フィードバック外部性が動き出した場合に現れるもので、深刻なレジリエンスに対する脅威である。社会は臨界点を特定し、これを回避しなければならない。
リスクの選択の適否は、人が反応できるスピードにも左右される。負のショックに対する反応が遅いほど、罠に陥るリスクが高くなる。逆に迅速な反応は、多くの場合ショックによる悪影響を和らげることを可能にする。
社会契約によってレジリエンスを獲得する
社会は多くの場合、社会契約を通じてレジリエンスを獲得する。社会は個人が権利を持たない「弱肉強食の掟」という問題を解決するために、外部性を制限する社会契約を形作る。社会契約は、社会のレジリエンスを高め、そのことによってさらにレジリエントな社会契約へと変わっていく。
社会が社会契約を実行するためのアプローチには、次のものがある。
①行政による執行
国家および地方のレベルで行われる。実行の形には、権威主義的なものと、開かれた社会によるものという2つがある。
②社会規範
社会から負の烙印を押されることへの恐怖が、強力な規律の装置になる。
③市場
例えば、価格システムは、経済システムに秩序をもたらす強力な道具である。しかし市場は完璧ではない。
これら社会契約の実行方法の間にはトレードオフがある。重要なのは、社会契約を実行するための最適な組み合わせを、状況の必要性に応じて転換および調整する社会の能力がレジリエンスを左右する、ということである。