VR30年
2019年はVRが商用化されて30年という記念すべき年だ。VRといえば、2016年にオキュラス社が599ドルで市場に出したHMD(ヘッドマウントディスプレイ)システム『Oculus Rift』が近年のブームに火をつけたと言われ、その後にはスマホを取り付けて手軽に使える安価なタイプから、ハイエンド製品まで各社から続々と売り出されたことは記憶に新しい。それを受けるように、HMDを使ったゲームやVRを体験できるテーマパーク型のシアターも全世界で続々と作られ、ネットでVRゲーム動画や360度映像を配信するサービスも多数始まった。
VRはHMDに限られるわけではなく、最近のスマホのGPS機能やジャイロセンサーなどを使ったAR的な利用法は広がっている。ハリウッドも映画のコンテンツをVRで楽しめる、新しいエンターテインメント開発に力を入れており、オリンピックやW杯のような世界的なスポーツイベントなど、大型3DシアターやHMDを使った事例が増えつつあり、VRは次世代のトレンドを牽引するキーワードになっている。
VRの市場デビュー
VRの市場デビューは、1989年、サンフランシスコでのことだった。Texpo’89というハイテクのイベントが開催され、そこに出展していたパシフィック・ベルという電話会社のブースで、VPL Research社という会社がRB2という初のVRを使ったコミュニケーションシステムのデモを行った。それはHMDを被った2人の参加者が、同じVR空間の中で会話できる3Dテレビ会議システムのような電話の未来をイメージさせるものだった。
VPLは元々視覚的なオブジェクトを使ってプログラミングを行うシステムを開発しており、そのために世界で初めてHMDと、手の動きを入力するセンサー付きの手袋であるデータグローブを製品化して売り出した。
VRという言葉やそれを実現するためのシステムやソフトは、VPL製品が90年代初頭に普及することで加速し始め、VPL創業者のジャロン・ラニアーが、VRのカリスマのような雰囲気を書き散らしながら各地で講演することで一気に世界に広まっていった。
VRは今後、どのような展開をするか
VRは、コンピューターの高度化とパーソナル化によって、メインフレームと呼ばれる大型コンピューターがミニコン、パソコン、モバイルからウェアラブルに至る過程で、情報を見る視点が個人へと移っていく過程に必然的に位置付けられるテクノロジーである。
サイズ別に見た各世代は、ほぼ15年間隔で出現しており、これにムーアの法則を当てはめると性能が千倍規模で向上することで、次の世代が実現していることがわかる。そして利用者との距離も、100m単位から世代ごとに1/10になっていく。主に使われる感覚は抽象的な論理から、視覚、聴覚、触覚と肌感覚に近くなっていく。距離が近くなると人間の付き合いと同じく関係性も親密になっていき、利用法はマスでパブリックなものからローカルでプライベートなものになっていく。
現在はモバイルからウェアラブルに移行中の時期と思えるが、それはさらに距離を縮め、脳波で情報機器をコントロールするものや体内に埋め込まれたインプラント型も出現し、サイボーグのような環境も論議しなくてはならなくなるだろう。VRはこうした個人と近くなった情報環境から、人が主観的に仮想世界に入っていくための1つの方法であり、ネットワークを介して全体をも俯瞰するための方法でもある。
VRはゲームやエンターテインメントの場面で注目度が高いが、感情や職人技などを伝達する、非言語的な分野で本領を発揮するものだろう。これからのインターネットで広がるコミュニケーションも、VTuberやアバターなど、3Dキャラクターを使って、文字だけでは伝えられないもっと対面に近い対話ができる方法が開拓されていくのではないか。