作業の断片化を防ぐ
コンピュータと違い、ヒトの脳は時々刻々と変わっている。脳は限られた情報処理能力を有効に使うべく、関係のない処理を積極的に疎かにし、その時々で必要な処理に集中して処理効率を高めるという調整を行なっている。
ここで意識したいのが、ブランクの空いた情報処理は効率が悪くなってしまうということだ。脳の情報処理は、数週間や数日どころか、数分、数秒という短時間のブランクでも影響を受けてしまう。中断による思考の切り替えによって作業の間にブランクが生じ、脳の情報処理に影響が及ぶ。
情報の処理内容を切り替えると時間がかかるのは、処理の方法や内容によって担当する脳の部位が異なることが関係している。これを脳の機能局在という。処理にあたるニューロンネットワークを切り替えるプロセスは、「検索」と「ウォーミングアップ」の2つが考えられる。「検索」については、時間が経つほどに検索に引っかかりにくくなる。脳の情報処理ではニューロン同士の結合が肝で、使わないニューロン間の結合は徐々に弱くなる。
ニューロンネットワークは「検索」し活性化し、新たに活性化したニューロンネットワークが、さらに結合先を「検索」し活性化する。複合的な情報やスキルに対応する上位のニューロンネットワークが、下位のニューロンネットワークに連鎖的に活性化する構造になっている。この過程が「ウォーミングアップ」であり、作業を始めた直後よりも30分、1時間後の方が作業効率が上がる。
そのため、2つの作業があった時、頻繁に切り替えるより、同じ作業を続ける方が効率が良い。作業の断片化は効率化の妨げとなるので極力避けなければならない。中断する時間が長いほどパフォーマンスの落ち込みは大きく、ウォーミングアップに時間を要する。
切りの悪いところで作業を止める
仕事や作業はブランクなく続けると効率的に進められる。だから、中断への対策によって非効率化をできるだけ防ぐことが必要だ。そのためには、作業を切りの良いところで終わらせない方が良い。これは「完成した課題よりも、中断した課題や未完の課題の方が思い出されやすい」という現象である。「心残り」は、関連したニューロンネットワークの活性化が維持され、ある程度ウォーミングアップされたままの状態である。すると、翌日は前日の作業を思い出しやすく、作業が進みやすい。
一方、「心残り」は同じ作業を続けるにはウォーミングアップしやすくて良いが、別の作業に切り替えなければならない時には邪魔になる。これを心理学では「注意の残像」と呼ぶ。そのため、時間的な締切を設けると、プレッシャにより「注意の残像」が弱くなり、進行中の作業効果を上げるだけでなく、次の作業への切り替えもよくしてくれる。
マルチタスクは効率を悪化させる
私たちは1つのことにしか注意を向け続けられない。歩きながらスマホを見たり、食事をしながら話ができたりするのは、脳があまり意識を向けなくても実行できることに半自動システムがなせる技だ。瞬間ごとに意識を向けられるのは1つだけである。マルチタスクをしていると思っていても、意識を向ける対象を時間的にこまめに切り替えているだけで、同時進行と錯覚しているの過ぎない。
意識対象の細かな切替は脳にとっての負担が大きい。交互に切り替えるタスクモジュールの活性度をあまり低めないよう無理がかかっている。マルチタスクで頑張ろうとせず、意図的にシングルタスクを心がけてみると効率が上がる。
余計なことを考えない
脳は1つのことにしか注意を向けられないが、飽きっぽい。作業中に他のことをふと思い出すことがあるのは、脳の司令部である前頭前野が処理を進行しているタスクモジュール以外にもいくつかのタスクモジュールとつながっていて、時々活性度が高くなることで意識に上るからだ。そうなると、取り組んでいた作業のタスクモジュールが休んで、また活性化させるのに時間がかかってしまう。
前頭前野は脳内で活性化している色々なタイプのタスクモジュールから常に干渉を受けている。
- ネガティブ
動物にとって身の危険を察知する能力は不可欠であり、ヒトの脳も恐怖中枢がその役割を担っている。そのため常に不安や心配事が頭にある。不安や心配事は棚上げせずに先に取り組んでおくと効率化につながる。 - ポジティブ
嬉しいや気持ち良いといった感覚を引き起こす。ポジティブな体験は快楽中枢とリンクしたタスクモジュールとして記憶され、つい思い出して余韻に浸ってしまう。作業の締め切りを早くするなど、考える隙をなくすといい。 - 雑念
生理的欲求や情報に対する欲求などが構成する。食べ物やスマホなど、欲を引き起こさせる刺激物は遠ざけるといい。
脳はつられやすく、ちらっと目にした情報ですら影響を受けてしまう。上記のタスクモジュールからの影響を少なくするために対策しておくことが大切である。