「ポッキー」はなぜフランス人に愛されるのか? 海外で成功するローカライズ・マーケティングの秘訣

発刊
2015年3月21日
ページ数
240ページ
読了目安
276分
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日本のお菓子から学ぶ海外マーケティング
「ポッキー」「ハイチュウ」「カラムーチョ」など、海外でも人気のある日本のお菓子の事例から、海外ではどのように商品展開すればいいのかを紹介している一冊。

日本のお菓子には可能性がある

日本のお菓子は世界中で販売されている。台湾のコンビニなどは、日本のスナック菓子で席巻されているといっても過言ではない。香港やタイのスーパーでも、日本のお菓子の取扱いは年々、確実に増えている。お菓子ほど日本の製造業の良さが凝縮された産業はない。小さな商品だが、可能性は大きい。

お菓子メーカーの多くは、輸出について数十年の歴史を持っているが、実態は輸出業者任せ。国内市場が伸び盛りだったため、海外市場はおまけのような存在だった。いざ、海外市場に本格的に進出しようとしてもしかるべき人材が見当たらないというのは当然である。

オリジナリティの高い商品、ターゲットに届きやすい流通チャネルの開拓、現地に最適化した味や価格。海外で勝負するにはこれらは不可欠な前提条件となる。そして、もう1つ重要なのが人材である。ガラパゴス的な商品を海外に売っていくには、海外市場への最適化を図る事のできる非ガラパゴスな人材が求められる。

 

海外での人気を不動のものにするマーケティング

「オレオ」や「キットカット」「m&m’s」といった世界各地で人気を集めるグローバルなお菓子と肩を並べるブランドが日本から誕生するとしたら、その1つは森永製菓の『ハイチュウ』だろう。

 

アメリカでは、2009年をピークにガムの売上が落ち、2013年までの過去4年間で11%減となった。改良を重ねてもフレーバーがすぐに消えてしまう事や、噛んだ後に捨てなければならない不便さが敬遠されたのだ。その一方で、売上不振に陥ったガムを尻目に伸びているのがキャンディーやタブレット菓子。同じ期間で売上は10%増となっている。この売上逆転劇の一端を担っているのが「ハイチュウ」でだろう。

 

「ハイチュウ」の快進撃は、ボストン・レッドソックスの田澤純一投手に端を発した。試合のたびにブルペンにテーピング用のテープや眠気覚ましの目薬、ガムなどのお菓子を入れたブルペンバッグを持参する「おやつ」係を勤めていた田澤投手が2009年、いつもお菓子の中に「ハイチュウ」を詰め、選手に配ったところから大好評を博した。その後、ボストン・レッドソックスと米国森永とのスポンサー契約が実現。「ハイチュウ」の味や食感は、選手だけでなく、ファンの間にも浸透した。人気チームの公式スポンサーであるという事実は、流通網の拡大に威力を発揮し、取扱店も急増している。

 

その後「ハイチュウ」は、ボストン・レッドソックスに加えて、シカゴ・カブス、ミネソタ・ツインズとも契約を結び、さらにはNBAのニューヨーク・ニックスともスポンサー契約を締結している。

森永製菓は「ミルクキャラメル」「チョコボール」「小枝」「マリー」「エンゼルパイ」「おっとっと」などたくさんある人気商品の中でも、「ハイチュウ」を海外向け戦略商品として選んでいる。「ハイチュウ」は技術的な価値が高い。キャンディーは競合が多い市場だが、「ハイチュウ」のテクスチャーはどこも出せない。誕生から40年経っているが、この食感と同じものはない唯一無二の商品である。海外進出には模倣されない技術が絶対不可欠である。

 

そして、海外で売上を伸ばすためのアプローチとしては3つの要素が挙げられる。

①誰でも手に届く価格にする
②現地の味に合わせる
③いろいろな形態(1個包装、ファミリータイプなど)を用意して、手に取りやすいようにする

 

但し,ブランドのコンセプトやロゴデザインのトーンアンドマナーは世界中で統一し、その上で味は現地化を徹底して、形態も含めて細分化していく。それが流通の開拓とうまくマッチした時に、お客様にとって、欲しいものが欲しい時に欲しい値段で常に揃うという状態になる。

 

ポテトチップスでは勝てない

カルビーは、1960年代後半から東南アジアに『かっぱえびせん』の輸出を始め、1970年にはカルビーアメリカを設立、その後タイや香港にも進出した。でも、ブローカーの依頼に応じて売っていただけで、末端の戦略など考えていなかった。そのカルビーは2010年から本気で海外に乗り出した。

 

カルビーは、ポテトチップスでは海外で勝てないとする。ポテトチップスを安定供給するには、生のジャガイモからのサプライチェーンを確立する必要がある。ポテトチップスビジネスは、いいジャガイモを必要量調達できるかどうかで勝負は決まるが、世界のジャガイモはフリトレーががっちり押さえている。

そこで選んだ商材が、アメリカではえんどう豆の菓子「ハーベストスナップス」だ。アジアを除く海外では、甘く煮た豆は嫌われるが、ただの豆はヘルシーだという理由で好まれる。海外で急増する日本食レストランでは、もはや枝豆は定番メニューだ。このカルビーの「ハーベストスナップス」はアメリカの店頭では「健康に良い食品」というカテゴリーで販売されている。日本のお菓子はおいしいけれど、おいしくて安いだけでは売れない。必要なのは戦略である。

 

現地に合わせたブランドを確立する

日本オリジナルのチョコレート菓子は無数にあるが、グローバルブランドとしての道を歩んでいるのが、江崎グリコの『ポッキー』だ。全世界の販売個数は年間5億箱、売上金額は4億ドル。その内2億箱を海外30ヵ国で売上げている。

江崎グリコの海外進出はタイから始まった。1970年にタイグリコを設立し「ポッキー」「プリッツ」の現地生産をスタート。ここで作られたチョコレート菓子は、シンガポールやマレーシアなど近隣諸国への輸出されている。

 

「ポッキー」の特長は、手で持つところがあり、手が汚れないところ。食べながらおしゃべりもできる。「ながら食べ」が可能なお菓子は他にはない。フランスでは「ポッキー」が「ミカド」として流通している。名称を「ミカド」に変更したのは、向こうで人気のある『ミカド』というゲームに使う竹の棒が「ポッキー」の形によく似ているためだ。ブランド・アイデンティティーは、アジアの「ポッキー」が元気ハツラツ、明るくティーンエイジャーだとすれば、「ミカド」は完全に大人。味も「ポッキー」より濃厚だ。フランスは成熟しており、日本とは感覚が違う。「ポッキー」は日本とは違う文化圏で育ち、異なる表情、しぐさ、色っぽさを備えるに至った。