イノベーションは1人の天才からは生まれない
イノベーションとは、新しくてなおかつ有益なものを創造する事だ。イノベーションというと、偶然の産物だとか、一握りの「クリエイティブな個人」達のブレインストーミングから生まれるものだと私達は考えがちだが、それは稀だ。実際には、イノベーションはもっと複雑な過程をたどる。過去30年間の研究によれば、イノベーションはほとんどの場合、集団によって生み出されている。
イノベーションに取り組む時の最大の課題は、メンバー全員からもたらされる多種多様な天才の一片を1つにまとめて、いかに統一された集合天才を生み出すかにある。革新的な企業が革新的であるゆえんは、これを繰り返し行えるところにある。
最終的にイノベーションの成否を左右するのは、どれだけ創造的な人材を見つけられるかではない。肝心なのは、才能そのものより、才能を生かせるかどうかだ。この難題こそが、イノベーションを導くリーダーの仕事になる。
イノベーションに導くとは、組織を築くこと
イノベーションは計画的に生み出せるものでもなければ、部下に命じて生み出せるものでもない。しかしイノベーションのために組織を築く事はできる。イノベーションに導くとは、組織を築く事に他ならない。つまり、コラボレーションと、発見型の学習と、統合的な決定を通じて、個々の天才の一片を作り出せる組織を築く事だ。そのためには、リーダーは2つの課題と向き合わなくてはならない。
①労多いイノベーションに取り組もうとする意欲が引き出される場を作ること
イノベーションを成し遂げようという気持ちを起こさせるには、目的と価値観と参加規則によって結ばれたコミュニティーを築く事が必要になる。
②メンバーが労多いイノベーションに取り組める組織を築くこと
そのためには創造的な問題解決の土台となる3つの組織の能力「創造的な摩擦」「創造的な俊敏さ」「創造的な解決」を組織に持たせなくてはならない。
イノベーションを導く3つの能力
イノベーションを育み、可能にする組織や環境を築けるかどうかはリーダーシップにかかっている。イノベーションを導くには、3つの能力が必要となる。
①コラボレーションのできる組織を築く
イノベーションのプロセスにはコラボレーションが欠かせない。イノベーションが最も生まれやすいのは、専門や経験や視点の異なる様々な人々の間で、アイデアが交換される時だからだ。
②発見型の学習を育む
イノベーションは大抵、長期にわたる実験的な試みと、試行錯誤の繰り返しから生まれる。そのため、試し、学び、修正し、再び試そうとする姿勢が欠かせない。
③統合的な決定を支える
チーム内で意見の不一致や選択肢が対立した場合、最善の解決策が見つかりやすいのは、アイデアの統合という対処法だ。A案とB案を足して、両案より優れたC案を創る。革新的な組織やリーダーは、単に統合的な決定を許すだけでなく、積極的に奨励する。対立する案であっても、できるだけ長く留めておき、検討を重ねる。十分に時間をかけて議論し、試行錯誤を繰り返す事ではじめて、有益な統合が可能になるからだ。また安易な譲歩や妥協も避ける。
リーダーが直面する6つのパラドックス
イノベーションが難しいのは、必ず次のパラドックスが伴うからである。
①個人と集団
アイデアの源泉はメンバー1人1人だが、最終的な成果は全体としてもたらされる。
②支持と衝突
あらゆるアイデアに異議を唱える事を奨励しながら、自分のアイデアを述べる事を支持しなければならない。
③学習と成果
成果を求められる中で、経験的な学習を重ねる事が必要となる。
④即興と構造
組織には制限や目標、限度、条件といった構造がなくてはならないが、イノベーションには即興が求められる。
⑤根気と切迫感
統合的な決定には根気が求められる一方、競争の激しい世界では切迫感もついてまわる。
⑥現場主義とトップダウン
イノベーションは大抵、現場から生まれるが、どんな組織にも序列があり、それが意思決定に影響を及ぼす。
リーダーに問われるのは、この6つのスケールにおいて、いかに「解放」と「活用」の適切なバランスを取り続けられるかだ。イノベーションに必要な3つの要素を可能にするバランスを保つ事である。
イノベーションを目指すのなら、リーダーは環境を整える事を自分の仕事だと心得なくてはならない。つまりメンバーが自らイノベーションに力を尽くそうとし、またそうできる環境を築くことが必要である。