GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか

発刊
2022年7月13日
ページ数
496ページ
読了目安
729分
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巨大企業が失敗した理由
1世紀以上にわたって輝かしい業績を残してきたGEはなぜ、わずか20年で没落したのか。ジャック・ウェルチの時代から、ジェフ・イメルトに経営が引き継がれる裏で何が起きていたのか。
巨大企業が衰退していく裏側を取材したノンフィクション。大企業が衰退に向かう経営の落とし穴が書かれています。

米国を代表する企業

1892年の創業以来、GEは単なる企業ではなく、米国そのものを代表する企業であり続けた。ジェットエンジン、超音波診断器、風力タービン、テレビ、融資契約、原子炉、電球、機関車、洗濯機など多様なGE製品の総価値は300億ドルに迫るという試算もある。
何十万人もの従業員にとっては人生の当たりくじ、株主にとっては損をする心配のない賭けだった。幹部社員にとってはエリート養成機関であり、そのうちの一部の者にとっては巨万の富に続く道でもあった。

 

GEは国の成長と共に成長し、時代と共に進化し、2000年のピーク時には、米国で最も価値のある企業となり、その企業価値は6000億ドルに迫った。境界を知らない広大な事業領域で、先進国の膨大な人口に影響を与えた。しかし、それから20年も経たない内に、GEは想像できないほど衰えてしまった。今でも世界に数百の拠点を有する巨大企業だが、株価はピーク時の一欠片に過ぎない。雇用者数で見れば、GEの凋落は短期間の内に起こった。

 

会計操作で利益を出していた

GEが、同世代で最も偉大な経営者と認められていたジャック・ウェルチによって、破天荒な成功を収めていた頃、足元に危機が忍び寄っていることに気づいている者はいなかった。1990年代半ばには、GEとウェルチはメディアからも金融界からも崇拝され、何をしてもこれといった反発はなくなった。経営を監視するのが役目の取締役会もほとんど出番がなくなった。取締役会は、会長でもあるウェルチの指揮にほぼ従った。

 

ウェルチは引退する何年も前から、次のCEOを探し始めていた。そして、2001年、ジェフ・イメルトが次のCEOに就任した。イメルトは、就任早々に会社に大きな影響を与える災厄に直面した。9月11日、同時多発テロによって破壊されたビルの損害をGEの保険事業が補償していたのである。そして、真の影響はもっと深刻だった。景気は既に10年ぶりの後退期に入っており、GEには抗いようのない圧力がかかっていたが、同時多発テロはその後退をさらに悪化させることになる。

 

GEの株価下落とともに、黄金時代の収益はウェルチの天才的経営ではなく、創造的な会計操作によってもたらされたものではないかと疑われ始めた。それを説明するのはイメルトの役割となった。

会計処理で業績を調整するというのは、どの会社もやることだが、GEは特に会計処理への依存度が大きかった。四半期末が近づくと、経営陣は当然のように、土壇場での調整やめまぐるしい事業部間取引を行なった。
GEでは最初に業績目標が決められ、どうやってそれを達成するかは二の次である。その目標を達成するために必要な数字が各事業部に割り振られ、方法はどうであれ、数字を達成することが厳しく求められる。あらゆる職位で、目標未達はキャリアの終わりを意味した。

次々に買収が行われて、利益確保の勢いが増していった。低い調達利率のお金で、それを上回る利益率の会社を買えば、利益が上がる。GEの資金調達コストは低いので、それは難しいことではない。

 

エンロンと同様、GEも多くの投資家やアナリストにとって謎の会社だった。その1つがエジソン・コンデュイットと呼ばれる巨大な特別目的会社を使った仕組みである。この会社はGEから独立しており、GEのバランスシートにも載っていない。問題は、この会社のすべてのリスクをGEが負っているにもかかわらず、投資家がその存在を知らないということだった。
GEは、エジソン・コンデュイットを介して債券を販売し、返済に必要な額以上の収益を得ていた。さらにはGEキャピタルの資産を簿価よりも高い価格で販売し、GEの利益を大きく見せていた。

 

しかし、状況は変わった。エンロンをはじめとする会計不祥事をきっかけに、上場企業が開示すべき情報についての規則が改正されたのだ。GEは、投資家に報告する利益をこれまでのように操作することができなくなった。

 

金融依存による失敗

イメルトはウェルチと同様、収益拡大の手段を企業買収に求めた。GEは利益の捻出と株主への配当をスムーズにするための調整を、GEキャピタルに依存するようになっていた。猛烈な買収と売却を続け、金融サービスの依存度を高めながら、イメルトは投資家に、GEは自分たちが何をしているか完全に理解していると請け合った。

 

2006年、サブプライム住宅ローンはGEキャピタルにとって、うってつけの市場だった。お金があれば動かして儲けることを考えるGEキャピタルにとって、サブプライム市場への投資は自然なことだった。そして、投資銀行大手のベアー・スターンズの破綻で大打撃を受けた。GEの業績維持エンジンは停止した。

 

2009年、GEの信用格付けは引き下げられた。高い格付けは数十年にわたってGE成功の鍵だった。この格付けがあればこそ、製造業を運営する資金や、GEキャピタルの融資資金を、安価に調達することができたのだ。この格下げが、GEの卓越性に歴史的打撃を与えたことは間違いない。

 

多くの投資家にとって、GEは魅力を失った。精彩を欠く業績、不明瞭な財務、そして未知のリスクが重なって、投資対象ではなくなった。投資家を引き寄せたかつての強み、すなわち企業としての信頼性、高品質の製品、優れた人材などをGEは失ってしまった。