キャリアは自らコントロールできる
「キャリアの目標を定めて、遠回りを避けて、最も近道を進む」という考え方をショートカット思考と呼ぶ。ショートカット思考を実践すれば、未来の自分を具体的に思い描き、より満足できるキャリアパスを導き出せる。
キャリア形成の道を歩む時、自分のコントロールが及ばない要素もある一方で、他の多くの要素については自力でコントロールが可能だ。私たちがアイデアに行き詰まり、キャリアを停滞させてしまう原因は、多くの場合、認知バイアスにある。認知バイアスの影響は、他人の活動によってのみ生じるとは限らない。私たちは、自分自身に潜む認知バイアスに邪魔をされている。熟慮を重ねた末の決断だと思っていても、ほとんどの場合は認知バイアスに邪魔されている。私たちは、自分で思っているほど合理的ではないのだ。
ショートカット思考6つのステップ
①最短で目指したい「目標」を定義する
最短距離のゴールを決める時には、そこまでたどり着くためにどんな活動をするべきかを考える必要がある。具体的な目標が思い描ければ、それは容易な作業になる。具体的であるほど、そこにいる自分の「MEプラス」はイメージしやすいからだ。MEプラスとは、思い描いた理想のキャリアに到達した自分自身だ。
MEプラスのイメージを固める前に必要なのは、今「自分を縛っているナラティブ」を明らかにする必要がある。自分ではコントロールできないという、完璧者のナラティブから抜け出さない限り、ゴールはいつまでも遠いままだ。最初に浮かんだ答えが「自分には無理」だったら、なぜそう思ったのかを自分自身に問いかけ、根本的な理由を探る。ナラティブは書き換えられる。最初の一歩は、自覚することだ。
②ムダにしている「時間」を見つける
私たちは、すぐに満足が得られる活動に時間を使おうとする。それは、大局的に見ればムダな時間だ。「無用な時間」を「有用な時間」に変えれば、目指すキャリアに近づける。
時間を見つけ出す上で最大の障壁が「時間的非整合性」だ。これは「長期的な利益になるとわかっている行動を、自制心が働かないために採用しないこと」という。自分の集中を切らす原因を見つけ出し、そこから自分を守る仕組みを取り入れれば、弱点を克服して前へ進める。計画した行動をやり通すためにアメとムチを用意して、長期的なコストもベネフィットも今感じられるように調整する。
③自分自身の「内側」を見つめる
ショートカット思考は、自分自身の認知バイアスに邪魔されるかもしれない。自分の内側をのぞいて、バイアスを見つけ出すことが重要だ。
早く成長するための近道は、多様な経歴や人生経験を持つ人たちからフィードバックをもらうことだ。自分が共に時間を過ごすロールモデルや同僚について考えることだ。気づかない内に、一緒にいる人は自分の行動やスキルに影響を与えている。
④自分の「外側」を見極める
他人の認知バイアスもまた、進歩を妨げ、進路から外れてしまう要因になる。外側の世界に目を凝らして、バイアスの正体を見極め、それを避ける術を身につければ、自分の作ったベストプランを台無しにされる心配もなくなる。
他人は、自分自身を見るのと異なる視点であなたを見ているし、彼らの認知バイアスや盲点がその視点を別の色に染めてしまう可能性もある。他人の行動バイアスは主に3つある。
- アンコンシャスバイアス:本人が気づいていないものの見方の歪みや偏り
- 代表性ヒューリスティック:性別、年齢、民族その他の特性によるステレオタイプ
- 統計的な差別:外見など目に入ったばかりの要素に基づく無意識の推測
⑤仕事場の「環境」を見直す
長い時間を過ごす仕事場の物理的な環境は、キャリア形成ゴールの実現可能性を大きく左右する。
作業を邪魔する要因を環境から取り除くには、強い意志が必要になる。中でも「インターネットのちょっかい」との闘いは究極の試練だ。時間を奪い取ろうと延々と続くちょっかいを断ち切るために、通知機能をオフにするのだ。邪魔されたくない時間帯を守るための環境を設定するべきだ。
⑥己の「レジリエンス」を強化する
ショートカット思考を実践する上では、レジリエンス(立ち直る力)を活用し、強化する必要がある。レジリエンスが高い人は「勝つこともあれば負けることもある」と考える。そしてその経験をもとに、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを検証する。一方、レジリエンスが低い人は、たった一度の失敗で自信が打ち砕かれ、次の挑戦を尻込みするようになる。人生にはいい時と悪い時がある。いい時と悪い時、それぞれにどう対処するのかによって、進歩する力も変わってくる。
ある人の行動を、状況ではなくその人の属性と結びつけてしまうことを「基本的な帰属のエラー」という。ネガティブな出来事に遭遇したら、まずそれは「基本的な帰属のエラー」に捉われている可能性を認識すること。そうすれば、すべて「ありがちなこと」に分類できるし、日々の打撃に対するレジリエンスも高まっている。