デジタル戦略でBリーグ1位に
2018年7月、DeNAはBリーグに所属するプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダーズ」を当時の親会社であった東芝から事業承継した。そして、戦略的にデータやデジタルを活用することによってファン層を拡大した。
- YouTubeチャンネル登録者数10万人突破(Jリーグ・Bリーグ合わせて1位)
- TikTokフォロワー数10万人突破(日本のプロスポーツクラブで読売ジャイアンツに次ぐ2位)
Bリーグのクラブの売上規模は、プロ野球の約1/10、Jリーグの約1/5と言われているため、こうした数字は驚きをもって見られる。これらのデジタル戦略は、試合への動員に結びついている。2018年にDeNAがBリーグに参入して3年目に、1試合平均来場者数でBリーグ1位を達成し、承継前年の7位から大きく来場者数を伸ばすことができた。
ファンをつくる仕組み
「ファンをつくる力」は、分解すると再現性のある形に落とし込める。ファンづくりは3つのプロセスに分解できる。
この3つのプロセスを精度高く実現することさえできれば、ファンがファンを生み、熱狂が熱狂を呼ぶ好循環の波に乗ることができる。
①個性の定義と体現
ファンを増やすためには、まずは個性を定義することが必要である。人はブランドの個性を好きになり、ファンになるからである。個性には機能性、デザイン、社会貢献など様々な切り口があるが、個性のないものにファンは生まれない。
定義した個性は掲げるだけではファンはつかない。個性を体現したものを体験して、その時に共感することで初めてファンになる。
②体験価値の最大化
試合の勝敗に関しては、事業サイドでは間接的努力しかできない。それにスポーツである以上、全試合勝つことはできないので、試合以外の箇所で満足度を安定的に上げることが重要になる。
演出・飲食など自分たちが仕掛けられる部分で、いかにお客さんに対して満足して頂くかがスポーツビジネスのキモである。川崎ブレイブサンダーズでも、満足度を向上させるために、試合前や試合間の演出・イベント、飲食やグッズ、マスコットや応援体験には意識的にこだわってきた。
これらの試合以外の部分を改良していく上で、アンケート調査によるデータが大きな役割を果たす。体験価値を高めてリピート率の向上を狙っていく上で、お客様の不満点を把握することは大切である。試合直後アンケートは改善点を洗い出す上で重要な役割を果たした。
一方、アンケートは定量調査には強いが、それぞれのファンの感情などを深く把握するには限界がある。体験価値を高める上では、川崎ブレイブサンダーズを応援してくれる方が何を楽しみに試合観戦に来られるのか、核となる価値の理解が重要である。そういったインサイトは対話の中からしか見つからない。そこでデプスインタビューを活用して、現在のクラブに感じている魅力や要望を伺い、その奥にあるコア価値を把握しようと取り組んでいる。
インタビューの結果、観戦満足度に大きく影響する要素として「応援の一体感」というキーワードが抽出された。そのため、「応援の一体感」を増幅させるための施策には特に注力している。
体験価値を上げるために解決するべき問題を特定するまでは、左脳的なロジックで積み上げていく。一方、それをどう解決して進化させるのかという企画部分は、右脳的な閃きやアイデアが必要になる。そこで、各業界をリサーチして、参考になる事例を見つけることに取り組んでいる。注意点は自分と同じ業界ばかり見ないこと。できる限り他業界から応用できる発想、体験はないかと考えて、それを自分の業界に転用する中で付加価値を加えていく発想が肝要である。
③体験人数の増加
ファンを増やすためには、体験人数を増やす必要がある。なぜなら体験しないとファンになどならないからである。新規体験者を獲得するにあたっては、どのような方に新たに体験して頂くかを突き詰める必要がある。そのため、どういった属性の方々にファンになって頂くポテンシャルがあるのかを把握することが重要である。
新規体験者を獲得するにあたり、効率の良いセグメントを把握することは極めて重要である。川崎ブレイブサンダースでは、「来場力」と「勧誘力」の2つの要素を重視した。本人も数多く来場し、周囲を誘ってくれる方を「アンバサダー」と名付け、その特徴は何かを分析した。そうして導き出されたのが「バスケをしている小学生の子供を持つ母親」や「イベント好きでアクティブな20代〜30代の独身女性」がアンバサダーになりやすいというものだった。
各施策に対してどの程度効果があったのかをデータで可視化して、効果が低いものは中止し、効果が高いものにリソースを集中させ、新たな施策を検証するというプロセスを踏んだ。PDCAを回す中で、新規体験者の獲得に強い効果を見出した施策が、他ブランドやコンテンツとのコラボだった。