薩摩の郷中教育に学ぶ 最強の後継者育成

発刊
2022年4月22日
ページ数
170ページ
読了目安
180分
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推薦者

リーダー人材を生み出すための古典的方法
西郷隆盛や大久保利通、大山巌、東郷平八郎などを生み出した薩摩の伝統的教育「郷中教育」こそ、現代企業のリーダー人材を育てるのに活かせるとし、郷中教育の解説から、それを現代に活かすための方法を紹介しています。

薩摩藩伝統の教育法「郷中教育」

「郷中教育」は、鎌倉時代から700年近く薩摩を統治してきた島津家に受け継がれてきた教育システムである。「郷中」とは、薩摩藩の区割りされた町内会のような小さな自治組織である。江戸時代初期には城下に18の郷中があったとされ、幕末には33に増加した。城下以外にも郷中があり、それぞれ青少年たちが年齢の枠を超えて近隣の民家で一緒に学んでいた。

 

郷中では、青少年を「稚児=現在の小中学生」と「二才=高校1年生から25歳の青年まで」に分ける。その上で具体的な教育メソッドである「武道修練」「忠孝実践(日新斎『いろは歌』暗唱、薩摩義士伝輪読など)」「山坂達者=野遊びによる体力養成」「詮議(想定問答)」などを通じて先輩が後輩を指導することによって、強い身体力と不屈の精神力を兼ね備えることを目指す。
薩摩武士の能力として最も大切とされていた「判断力」「発想力」「実践力」を持つ人材を育てようとする訓練である。テクニックや暗記主体の教育ではなく、文武両道を奨励し、ひたすら考えさせる訓練法だった。

「年長者は年少者を指導すること」「年少者は年長者に敬意を払う」「負けるな、嘘をつくな、弱い者をいじめるな」など、人として生きていく最も大切なことを「薩摩の教え」として学んでいった。

 

幕末維新期、薩摩藩からは優秀な人材が続々と誕生した。その人材育成戦略の土台には、郷中教育があり、その魂となる理念が「いろは歌」に込められていた。「いろは歌」は、島津家中興の祖と言われる島津忠良(日新斎)が、1545年に生み出した人生訓である。この理念の徹底により、薩摩藩という団体は目標を持った組織体となった。

「いろは歌」は、「い」から始まり最後の「す」まで、47首の歌が詠まれており、全編を通じて、「誠」を尽くすことの大切さが込められていた。

 

※いろは歌

http://www.shimazu-yoshihiro.com/shimazu/shimazu-irohauta.html

 

「いろは歌」は、庶民にも理解できる平易な言葉で人の生き方、考え方、行動規範を説いている。大切なことは、薩摩藩では少年時代から「いろは歌」を毎日繰り返し誦じていたということ。少年時代から「いろは歌」を詠むことで、その「理念」が刷り込まれていった。ここに薩摩藩の人材育成のポイントがあった。

 

想定問答によるリーダー人材育成

郷中教育は、「先生」を否定するところから始まる。そして、最初に「先輩」を選ぶ。師弟関係や上下関係を作らず、ナナメの関係である先輩の背中を見て後輩は育っていく。初めから先輩の意見は正しいと考えない。絶対的な師は不在なので自ら最適解を選択するしかない。だから思考力が鍛えられる。

 

郷中教育のリーダー人材育成で最も有効なのは、「詮議」だった。詮議は、相手の出方を想定して、次の展開での最適解を求める訓練である。どれが正解だとか間違いだということは教えない。訓練は複数の選択肢を通して行われる。

敵と対峙した時、こちらの出方によって相手も対応を変えてくる。すると、こちらも選択肢を変えていかなければならない。前もって相手を研究して、どんな考え方なのか、過去にはどんな選択をしているのかも踏み込んで考えて、その上で対応策を考えていく。

詮議での最適解は「勝つこと」ではなく「負けないこと(家を守ること)」である。家を守るためならば「引き分け」でもいい。ケーススタディを繰り返すことによって、後継者としての発想力、思考力が鍛えられ、ベストな結果の出し方をトレーニングしていた。

 

郷中教育を後継者育成に活かす

郷中教育を現代の企業の後継者育成に活かすためには、次の方法がある。

 

①経営理念の設定

会社に「経営理念」がなければ、後継者を引き付けることは不可能である。薩摩藩の「いろは歌」のように会社が存在する理由を明確にする必要がある。

 

②社長自身がロールモデルになる

郷中教育では、自ら手本となる年長世代を選ぶ。次代のリーダー人材が現在のリーダーの背中を見て成長していく。社長自身がロールモデルとして、次代のリーダー候補と一緒に経営理念を口ずさむことがポイントである。

 

③後継者に必要な3つの学力を磨く

  1. 国語力:200字1分間スピーチで1つの考えをまとめて表現する
  2. 複数思考実践力:詮議のように4つの選択肢で打ち手を想定する訓練をする
  3. 数学的詮議(新フェルミ推定):フェルミ推定を解く