繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学

発刊
2019年6月21日
ページ数
424ページ
読了目安
580分
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国を繁栄させるための処方箋
なぜ、繁栄する国と貧しいままの国があるのか。国が繁栄するためには、従来型のインフラ支援だけでは不足しており、無消費者を消費者に変えて、市場を創造するイノベーションが必要だと説く一冊。

従来型の支援では貧困を根絶できない

どうすれば貧困を根絶できるかの見解は一致を見ていない。綻びだらけの社会インフラ(教育、医療、交通など)を整えて社会の仕組みを改善する、国外からの支援を増やす、貿易を促進するなど、様々な提案がなされている。しかし、正しい解決策が何かについては意見が分かれても、進歩が遅すぎるという点は誰もが認めざるをえない。

飲み水など目に見える問題を解決しようと資金を投じ、貧困国を直接支援しようとする試みは、支援する側が期待したほどの成果は挙がっていない。長年にわたって巨額の資金が貧困問題に振り向けられてきたが、進展の歩みはのろく、方向がずれているのではないかという疑念がある。資金を投じれば一時的には問題が緩和されたように見える。しかし、根本的な解決ではない。

繁栄とは

繁栄を指す指標としては、教育の受けやすさ、医療、安全・危機管理、真っ当な統治などがよく使われる。こうした尺度は社会の構成員の幸福を評価する上で重要だが、繁栄の尺度としてさらに重要なのは「生計を立てられる雇用と上昇可能な社会的流動性」である。繁栄を「多くの地域住民が経済的、社会的、政治的な幸福度を向上させていくプロセス」と定義する。

繁栄のパラドクス

貧困の解決と長期的な繁栄は繋がらない。繁栄をもたらすのは新しい市場を創造するイノベーションである。教育や医療、行政機構、インフラなど、繁栄との関連が強く示唆される指標を改善するための資源を貧困国にいくら注ぎ込んでも、持続性のある真の繁栄が創出されるわけではない。国が繁栄し始めるのは、市場創造型イノベーションに投資した時だ。市場創造型イノベーションは、持続可能な経済発展にとって触媒の役割を果たす。

多くの国に成長を生み、持続させてきた重要な要素は、消費者の苦痛にビジネスチャンスを見つけ、市場を創造するイノベーションに投資し、開発のプル戦略(必要な時期に必要な仕組みとインフラを社会に引き入れる)を採ることだった。繁栄するはずなのにできないでいるパラドクスを解決するにはこれらの要素が不可欠である。

市場創造型イノベーションが繁栄をもたらす

市場創造型イノベーションは、高機能で高価なプロダクト/サービスをシンプルで安価なプロダクトに変換し、「無消費者」から手の届く状態にする。どの地域であっても経済は消費者と無消費者で構成され、繁栄した経済では、多くのプロダクトで消費者の割合が無消費者の割合を上回る。無消費者は、何らかの方法で現状を進歩させたいと苦闘しつつも、優れた解決策を入手できない状況に置かれてきたため、進歩を遂げられずにいる。市場に解決策がないのではなく、無消費者は既存の解決策を買う余裕がないか、それを使うために必要な時間や知識が不足している。

市場創造型イノベーションは、一国の経済推進というエンジンに点火することができる。このイノベーションが成功すると、3つの成果が得られる。

①プロダクトを生産し、販売する人員が必要となり雇用を生む
②消費者が増えることで利益が生み出され、社会インフラの資金となる
③社会全体の文化を変容させる

市場創造型イノベーションを成功させる5つの鍵

市場を創造するには、他者に見えていない市場を先に見つけなければならない。

①無消費をターゲットにしたビジネスモデル
②実現を支える技術
③新しい価値ネットワーク(顧客と価値を提供する企業群の生態系)
④緊急戦略(柔軟な対応)
⑤経営陣によるサポート(理解)