ユーザーファーストの新規事業

発刊
2022年3月28日
ページ数
222ページ
読了目安
274分
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推薦者

大企業が新規事業を始めるにあたって考えるべきこと
損保ジャパンで新規事業を推進している著者が、大企業が新規事業を立ち上げるために必要なことを紹介している一冊。損保ジャパンにおける新規事業の立ち上げや、著者がこれまでに経験してきた新規事業開発の事例を紹介しながら、まず何をしなければならないのか、どのように人材を育成すれば良いのかが書かれています。

既存事業の「強み」を活かすことが大切

「何を」新規事業とすべきかを考える際の第一歩は、既存事業の「強み」を突き止めとらえ直すことである。新規事業は新しいことをすれば何でもいいわけではない。完全に新規性を狙うタイプの事業開発は、時間や金、ヒトといったコストが極めて高いものになる。
自社の「強み」を知ることが重要なのは、これから起こす新規事業を、他社がすぐに参入できないようにする上で、会社の資産を活かすことが不可欠だからである。

 

既存事業の強みに目を向けた次は、現代社会が広く抱える課題に目を向ける。社会課題の解決=新規に立ち上げる事業の利用者のメリットである。新規事業として軌道に乗せるには何よりも利用者の需要の向かう先とならなければならない。動いてもらいたい人に動いてもらうためには、結局のところ、その人の気持ち、どういうことが不安なのか、どういう時代背景において、人として、企業として、何をすればいいのか、当事者として考えて提案することが何よりも肝要である。

 

何が社会課題として持ち上がっているのかを知るには、新聞などの報道に目を光らせておくほかない。「いま、世の中で何が起きているか」を知らずして、そこから掘り下げた分析や検討など、できようはずもない。その上で必要なのは「それはなぜ起きているのか」という発想である。「なぜそうなのか?」「本当にそうか?」を何度も繰り返していくことで、リアリティが高まっていく。

この時に、特に都合よく考えてしまいがちなのが、ユーザーの動きである。新規事業を現実のものとして捉える上でも、ユーザーの動きをリアルに描き出す上でも、事業に対する当事者意識、ユーザー意識を持つことが重要である。「こういう時代になったら、こういうサービスを受けたい」「こういう生活をしたい」といった発想が新規事業の開発には役に立つ。

 

新規事業を立ち上げる上では、スピードも重要である。これは同業界の競合他社との競争でも有利に働く。素早く新規事業を立ち上げる場合に有力な手法となるのが、他社とのアライアンス、自分たちにない企業資産との掛け合わせである。合弁会社を立ち上げたり、買収したりと色々な手段はあるが、自社の強みと他社の強みを掛け合わせることで、素早く形にし、事業の寿命を延ばすこともできる。

 

考えることを習慣化させる

新規事業開発は経験がモノを言う。経験なしにいきなり事業を立ち上げてしまう英才も中にはいる。しかし、そういった人は人材市場にはほとんどおらず、希少価値が高い。そもそも自分で勝手に創業している。
一足飛びに新規事業を成功させられる、スーパー人材はいない。存在していても自社には来ない。この事実を受け入れた上で、プロパー社員を育てていく。新規事業開発人材の育成は、かなり腰を据えて、覚悟の上で当たるべきである。

新規事業開発人材を育てようとして、コンサルタントを入れて、社内から事業企画を募集し、プレゼンテーション大会を開いてみても、結局モノにならなかったという経験を持っている人も多いだろう。

 

既存事業に親和性が高く、ある程度の成績を収めている「今のままでいい」というタイプには、事業開発はかなり厳しい。事業開発でまずスタートを切れるタイプは、一定以上、現状維持に対する不安を抱えている人である。既存事業でくすぶっている人は少し芽ががある。外から「出世しろ」とか、「危機感を持て」とか言っても、あまり効果はない。
現状を認識して「マズイぞ」ということがわかる、かといって、すぐに逃げ出そうとはしない、それは事業を立ち上げる上で、大切な能力である。今、自社がどんな状況に置かれているのか、現在の強みは何で、社会が抱えている課題をどうすれば解決できるか、どのように考えるための第一歩だからである。

ユーザーが抱えている課題は何か、普及拡大を妨げる「負」の部分はどこか、現業の業務を改善するクセ、そういったものが世の中の課題の改善につながる。

 

「考える」というのは習慣にできる。「考えられる」ようになるためには、「考えざるを得ない環境に置く」、それによって問題解決にクセがついていき、経験値も溜まっていく。育てるにしても、自分で立てられるようになるにしても、まずは「考えることの習慣化」が大事である。

 

まずは、既存の現実にある企業のビジネスモデルを見抜けるようになること。立ち上げる競合企業や、成果を収めているベンチャー企業がどうやって収益を得ているかを把握できるようにすること。ここがわからないと、事業開発はいくら勉強しても要点を捉えられない。