楽天IR戦記 「株を買ってもらえる会社」のつくり方

発刊
2019年6月13日
ページ数
304ページ
読了目安
310分
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どのようにすれば投資家に株を買ってもらえるのか
2005年の楽天がTBSの株式を取得した時から12年間、IRを担当してきた著者の記録。ライブドアショックや楽天クレジットカードの過払金問題、東日本大震災など、多くの問題の中で、投資家との対話を続けてきたIRの裏側を知ることができます。

IRとは

株式会社というものが何か大きなチャレンジを行う時には、リスクマネーの供給者である資本市場を頼る。そして銀行のように返済の約束がないだけに、投資家と企業との真剣勝負が繰り広げられる。それが企業と投資家との対話の基本である。

この真剣勝負は、投資家の頭の中にある企業価値計算のスプレッドシートをどう変化させ、価値を高め、購入の意思決定をしてもらえるかという、一種の知的バトルでもある。

妄想コントロール

新たな市場を創造する。これはもはや、社会変革の妄想である。妄想と嘘は違う。他人が思ってもいない新たな市場創造や変革が起こるイマジネーションが妄想である。資本市場との対話においては、妄想は投資家の頭の中にあるスプレッドシート、つまり企業価値評価の計算式における、潜在市場の大きさと収益成長率を大きく変化させることがある。

アナリストや投資家達が認識していなかった市場が開拓されるということは、中長期的な企業価値評価を大きく変えることになる。投資家だけでなく、交渉相手や社員も同じ妄想を共有できれば、それは大きな事業推進力になる。そういう意味で、妄想がもたらす効果は軽視してはならない。

IR戦略の基礎

IR活動を戦略的に行うため、まずは社内向けにIR週報を出すことから取り組んだ。IRの活動報告と株価推移や、興味深いアナリストレポート等を社長、執行役員、事業のキーパーソンらに毎週メールする。単なる報告ではなく、IRに興味を持ってもらい、情報交換をしやすくする目的だった。どんな仕事でも情報収集は大事だが、情報は発信する人の所に集まってくる。

IRデータベースという機関投資家とのミーティング履歴も作り始めた。機関投資家と言っても運用資産規模は数十億円から数百兆円まで幅広く、投資スタイルもバラバラである。どんな投資家に企業から誰が会うのかは、非常に重要である。もし社長が取材を希望する投資家全員に会えば、事業に使う時間がなくなり、かえって業績の低下を招き株主の利益を損なうことになる。

とはいえ、社長にしか語れない事業への思い(妄想)や実行へのコミットメントもある。IR担当者が会うべき投資家を判断するための基礎資料として、投資家の運用資産額、特徴、保有株式数、ミーティングの履歴やその時の関心事項をデータベース化した。

企業としては、中長期的な経営戦略に理解を示す安定的な大株主に保有してもらいたいが、大株主も、当然何らかの理由で売ることがある。そんな時にも次の大株主が生まれるように、常に一定の数の大手機関投資家に重点的なIR活動をしている。そして大株主が売買する時に適正な価格で充分な流動性を与えられるよう、ヘッジファンドなどの短期投資家にも幅広いアプローチが必要である。

投資家の保有株数が減っている場合、その時のメモを見ると何が懸念材料と思われたのかが理解できる。データをよく読むと、一貫した深いテーマで質問をしている投資家がいることにも気づかされる。IRの目的は「投資家と良好な関係を築くこと」ではなく、「株を買ってもらうこと」である。投資家との信頼関係構築はその前提条件である。データは蓄積すれば蓄積するほどIR活動の対象が定まり、後々非常に重要なデータとなっていった。

参考文献・紹介書籍