人はなぜ幸福と感じるのか
自分の人生をどう感じるかは、個人の物質的な豊かさと関係がある訳ではない。むしろ、物質的な要因と幸福感の関係は相反する。幸福度(主観的生活満足度)の3/4が次の6つの要因によって決定づけられる。
①社会からのサポート:困った時に頼れる人がいる。
②寛大な心:誰かに対して思いやりのある行為をしたり、思いやりのある人たちの中にいたりすることで、より幸せを感じる。
③信頼感:信頼関係の崩壊や不誠実さは生活満足度を低下させる。
④自由:人生において重要な決断をする自由を十分に持っていると感じる。
⑤個人の収入
⑥健康寿命
6つの要因の内4つまでが、社会的な交流に関係がある。この4つの社会的な要因(関係財)が揃うことで、私たちは幸福を感じる。
幸福度には年齢そのものが影響する
人が自分の幸福度を答える時、年齢が大きく影響する。幸福度は大人になった頃から徐々に下がりはじめ、中年期で最低となり、そこから徐々に上がっていく。グラフにするとU字曲線(ハピネス・カーブ)になる。これは、チンパンジーやオランウータンなどの類人猿にも当てはまる。つまり、幸福には生物学的なものが強く影響している。
期待と現実のギャップが失望感を生む
若者は常に将来の満足度を過大評価している。だが時が経つにつれ、過大な期待は消えていく。それまでに何度も失望感を味わったり健康でワクワクするような毎日を送れる時期はもうこれで終わりだと思ったりすることで期待値が下がる。
叶えられなかった期待に対して後悔を感じると、期待する満足度と実際の満足度のギャップはますます大きくなる。40代半ばというのは、期待していたことが満たされずにフラストレーションを感じることが多い世代である。
50代になるとU字曲線は上向きに転じる。期待値と実際の満足度との差は少なくなり、その後また開いていく。中年期以降の生活満足度は、期待値とは異なり、高くなっていく。中年期以降の20年という長い期間は、どの年齢でも後悔や失望は見られず、意外なほど喜びに満ちている。
人生の前半は期待値を高くしすぎて大きな失望感を味わうが、人生の後半ではそれもなくなるのだ。
人生の後半で価値観が変化する
人生後半の幸福度が高まる理由は、歳を重ねることで価値観が変化するためである。高齢者は若者と違って、ネガティブな表情や悲しそうな表情をしている人よりも、幸せそうな顔をした人の方に注意を向けるようになる。また、高齢者はポジティブな記憶の方をよく覚えている。
その効果が要因となって、人生の後半でハピネス・カーブがどんどん右肩上がりになっていく。心から大切だと思う目標に重点を置くようになり、満足感を得られるような目標を意識に設定したり、満足感を得られるようなものを優先したりして、後悔や失望を生みそうなものを排除しようとする。目標が変わるのは、無意識的にポジティブなものに目を向けようとしているからでもある。
ハピネス・カーブは自分の感情に重きを置き、ポジティブなものの見方ができるようになることで上昇に転じる。これは、関係性を重視し、コミュニティに意識が向くようになる結果だ。自分ではあまり感じることはないが、価値観が社会的なものに向くように変化していくのが中年期だ。
ハピネス・カーブが下降する時期や最も低い時期は、楽観主義から脱却していく時期である。抑うつリアリズムへ向かって、長い期間をかけて少しずつ調整されていく。将来の幸福に対する期待感は減少する。感情面でも、多くを望むのをやめ安定を望むようになる。そして安定は、満足感を生む。