食農ビジネスのキモ
Living Rootsは、農産物の卸と小売を主な業務とする会社である。野菜や果物、いわゆる青果類全般を、全国47都道府県の生産者から消費者に届けている。現在は、東京の渋谷、根津、埼玉の大宮に「菜根たん」という八百屋3店舗を営業している。
「食農ビジネス」には、「生産」→「流通・加工」→「消費」に関わるすべての業務、加えて、その周辺に生まれる新たな価値・サービスを提供する業務などが含まれる。食農ビジネスは、生産者に関わる課題(担い手不足、新規参入など)、食品流通構造の多様化といった構造的な転換期を迎える中で、新しいビジネスチャンスが期待できる分野でもある。
農産物が生産者から消費者に届くまで卸売市場を経由する場合、需要と供給のバランスを保ちながら価格設定がなされるメリットがある。一方、生産者は流通の構造上、農協との関わりなども含め、厳密な「流通規格」を遵守する必要がある。
卸売市場の機能・役割には、安定供給のためのインフラになっているということ以外に、「物流コストの効率化」がある。市場が出荷者と消費者の仲介をすることで、販路が整理される。流通効率を上げるためには、輸送で使用する段ボールやコンテナケースにスペースを余すことなく詰めるということも重要になる。そこで、農産物の形や大きさで決定される「規格」が生まれた。
ここでは「こだわり」よりも「見た目」が重要視される。規格から外れてしまったものが、生産地や流通過程で廃棄される原因になっている。
これに対して、Living Rootsの業務は、青果類が生産地からエンドユーザーに届くまでのすべての過程にまたがっている点が強みである。Living Rootsの「食農ビジネス」におけるキモは、この「地方→消費地間の物流」である。
価格の割に重量がかさむ青果類は、輸送コストを抑えることが利益を左右する最大のポイントである。概ね、Living Rootsでは地方から東京の物流コストは20〜40円/kgとなっており、これは宅配便などと比較すると1/4程度となる。
Living Rootsは産地直送品の扱いにおいて、給食用などの量のまとまった青果類と小売用青果類の輸送を同時に行うことで、全体としての物流量を増やし、地方から豊洲センターへの独自の物流網を広げることで、物流コストの削減につなげている。
Living Rootsは全国の農家と直接取引をしている。多くが個人事業主である農家は、同じ野菜や果物を作っていたとしても、百人百通りのスタイルや価値観がある。安全で美味しい農産物は、生産者の時間や労力、それ以前に、そうした商品を消費者に届けようという熱い「想い」なしには作れない。
そこで、消費者であるお客さんに野菜や果物を直接届けている「菜根たん」では、商品のみならずそこに込められた農家の「想い」や「背景のストーリー」をできるだけセットで販売し、逆にお客さんの「声」や「反応」を、できる限り農家に返している。
Living Rootsの食農ビジネスのポイント
WHO(誰に) :消費者に
WHAT(何を):安全で美味しい青果を
HOW(どうやって):
①生産者から色や形、大きさなどに差があるものを含め、できるだけ大きな「量」で仕入れ
②効率のいい運送方法、ルートを使って消費者まで運び
③消費者のニーズに合わせた「見た目」「サイズ」「量」で
④生産者の想いや物語を含めた商品にまつわる詳しい情報、美味しく食べるための方法などをプラスして、販売する
食農ビジネスモデルの最大の特徴は、他社にない「物流のアレンジ(最適化)」である。例えば、全国各地の商工会議所や長野県飯田市の民間地域商社を通して生産地域を紹介してもらい、集荷拠点の整備や運送会社の手配を行うことで物流の最適化を図っている。
これにより、それまで要していた物流コストが最大で1/4程度まで削減され、結果的に生産者の「利益率」向上に貢献することができる。全国47都道府県でこうした物流基盤を構築していけば、日本の農業と食農ビジネスのあり方は確実に変わる。それだけ農産物の流通過程で生じる物流コストは、生産者にとって大きな負担となっている。
物流ルートを構築するために既存の取引会社から運送会社を探す時は、まず小規模な会社で、かつ積載率が100%に満たない状態となっているところを探す。運送コストを下げると時に活用するのが「混合配送便」である。100%に満たない運送トラックがある場合、そのトラックに自分たちの農作物の配送をしてもらう。運送会社は積載率がアップすることで、お互いにWin-Winとなる。