勉強につまずいている子どもを助ける
個別指導塾「森塾」やAIを活用した「自立学習 RED」などを展開する株式会社スプリックスは、新潟県長岡市で1997年に創業した。創業者である平石明は、新潟市内の大手進学塾で講師を務めていた人物である。
当時の学習塾で主流だったスタイルは、大人数の生徒に対して1人の講師が教える集団指導塾である。そして、有名進学校への合格実績を出すことこそが塾の目的であり、講師は1人でも多くの生徒を有名校へ合格させることが使命だった。
集団指導のスタイルでは、上位クラスの中でも1番の生徒と最下位の生徒が生まれる。しかし授業は、合格実績を出すためにどんどん進んで行かざるを得ない。理解が深まらないまま、置いて行かれる生徒も出る。
上位クラスの生徒と比較すれば、中下位クラスの生徒たちは学習の進度も遅れており、学校の授業さえわからないことも多い。しかし、教え方ひとつで彼らの伸びしろは無限にある。平石は、当時の学習塾がターゲットにしていなかった子どもたち、勉強につまずいている子ども、勉強に自信をなくしている子どものための塾を作ることを決意し、個別指導形式の「森塾」の運営をスタートさせた。
子どもの「やればできる」を育てる
森塾では、講師1人に対して生徒2人までの体制で個別指導を行なっている。ターゲットとしているのは、有名進学校を目指している成績トップクラスの生徒たちではない。これまでの塾であまり注目されてこなかった、ミドル層の生徒たち。塾の教室の後ろの席で、目立たぬように授業に参加してきた、いわゆる普通の子どもである。
森塾最大の特徴が、「学校のテストで1科目20点以上成績が上がること」を保証する制度である。森塾がターゲットとするミドル層の子どもたちのニーズにフォーカスすると、彼らの目標地点は進学や就職といった遠い先の未来にはないことがわかる。彼らのニーズは、学校に通っていれば必ずやってくる定期テストである。
ミドル層の子どもたちにとって、定期テストは恐怖でしかない。普段の授業がわからないので、テストで点数が取れる道理がないが、できないとわかっていながらも定期テストは受けざるを得ない。これが、子どもたちのやる気と自尊心を削っている。せめて定期テストで悪くない成績を取りたい。これが子どもたちの偽らざるニーズである。
森塾では学校の授業の予習を行う。それは、学校の授業がわかるということこそが、成績を上げる1番の近道であると考えているからである。ミドル層の子どもの場合、学校の授業がわからず、つまらないために、授業中は机に突っ伏して寝ていることもある。下を向いて何か別のことをしている生徒も少なくない。
苦手意識があるから、授業を集中して聞くことができない。ならば、その苦手意識をなくしてやるのが塾の務めである。一度習ったところを教える復習型の授業の方が、教える側は楽である。しかし、ミドル層の子どもたちは、その前の段階で苦しんでいる。そこで、森塾では、学校の授業をしっかりと聞いて理解してもらうために、先回りして予習型の授業を行なっている。
「そういえばこれ、森塾で聞いた内容だ」となれば、子どもたちの顔は上がる。少しでも内容が理解できれば、その先を聴きたくなる。しかも、出された例題も思いがけず解けてしまう。
個別指導を行うのは、それ自体が目的ではない。学校の成績を上げること、それによって子どもたちに「自分もやればできるんだ」と思ってもらうことを最大の目標としている。授業がわかり、定期テストの点数が上がると、子どもたちは劇的に変化する。
データを利用して成績を上げる
どうやって定期テストの点数を上げていくのか。まず森塾では、講師1人が生徒2人を教える体制だが、この時、2人の生徒を同時に教えるのではなく、一人ひとりの能力と個性に合わせながら、別々に指導をしていく。そのため、生徒は自分の苦手な個所に集中して授業を受けられる。
人間対人間の個別指導では、ある生徒にとって良い先生でも、別の生徒にも良い先生とは限らないこともある。「やればできる」を引き出すためには、講師と生徒の相性も重要。そこで森塾には、相性が合わないと感じた場合には変更できる「先生変更制度」がある。
さらに使用するテキストにも秘密がある。全国から集められた数万枚に及ぶ定期テストを分析し、さらに何千人もの森塾の講師の意見やアイデアを盛り込んで作られた「フォレスタシリーズ」が鍵を握っている。定期テストの問題傾向の変化や、問題ごとの得点率の変化に対応するために、毎年改訂を行なっている。
ミドル層の生徒に対し「とことん成績を上げる」という目標を追求してきた森塾は、2021年末現在、全国に184教室、生徒数4万人を超え、日本最大規模の個別指導専門塾となっている。