「万人受け」する商品は狙わない
ヒット商品といっても、実はそれほど多くの人が買っている訳ではない。これは「誰もが買う商品」でなくても、十分にヒット商品になり得るという事でもある。そもそも誰もが欲しがる商品をつくろうという発想が、無理な話である。そして、仮に誰もが「欲しい」と思っても、購入される事のない商品がある。
反対に、ほとんどの人が「欲しい」と思わない、10人の内9人が見向きもしない商品でも、1人が買い物リストのトップに載せてくれたら、確実に購入してくれる。誰もが「そこそこ欲しい」と思う商品ではなく、たとえ一部の人であっても「熱烈に欲しい」と思うような商品がヒットにつながる。誰にでも好まれる最大公約数的なアプローチは、どっちつかずで、インパクトの弱いものになりがちである。
隙間市場を開拓する
キングジムが目指しているのは、既存の市場への参入ではなく、全く新しいカテゴリーの商品を投入して、新しい市場をつくり出す事である。問題はその規模である。あまり市場が小さすぎてもビジネスとして成り立たない。また市場が大きくなりすぎると、そこに他社が参入する余地が生まれる。だから、小さすぎず、大きすぎない適正な規模の市場を考える必要がある。
機能を絞り込む
「10人に1人」の隙間を狙うには、ターゲットをあえて絞り込む。そのためには、ターゲットにとってどの機能が必要で、どの機能が必要でないのか、その見極めを慎重にしながら機能を絞り込んでいく。ユーザーの立場に立ってみれば、使う事のない機能なら、あっても何のメリットにもならない。タダでも不要なものが付いてくる事には抵抗があるというユーザー真理も存在する。
市場調査をしない
キングジムでは、市場調査をほとんどしない。理由はアテにならないと考えるからである。市場調査というものは、少なくともこれまで世になかった新製品を出す時の参考にはならない。消費行動というものは、本当に複雑で、アンケート調査を集計したからといって簡単に結論が出る訳がない。
10打数1安打を目標にする
マーケティング調査に時間とお金を使うなら、まず商品化してみる。商品化するかどうかは多数決では決めない。「いけるかもしれないな」と思ったらGO。だから会議に上がってきた商品企画の8割は商品化される。新製品は年間100を超える。この中で、ヒット商品と呼べるものはごくわずかである。
10打数1安打でいい。1本当てれば、9回の損をカバーして採算が取れるだけでなく、十分にお釣りがくる。失敗したら、すぐに撤退し次の手を考えればいい。結局は何が当たるかは予測できない。「10打数1安打」でいいと思えば、発想ものびのびとできる。
但し、1つだけ絶対に守らなければならないポイントがある。失敗をそのままにしない事である。失敗したら、その失敗を徹底的に検証する。なぜうまくいかなかったのか、理解して、納得して、消化するようにする。
サクセスストーリーを描けるかを見定める
開発会議ではすべてがGOという訳ではない。アイデアを見極める基準は、開発アイデアを聞いた時に、そのサクセスストーリーを描けるかどうか。その商品ができれば、こういう人達が、こういう目的で買ってくれるだろう、という流れがイメージできるかどうか。そのストーリーが見えていれば、やってみる価値がある。
まずは開発者自身が「自分ならこんな商品が欲しい」と思うものを考えてみる、というのが近道である。