直感力

発刊
2012年10月16日
ページ数
224ページ
読了目安
207分
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直感力を磨くべし
直感とは自分自身の経験の積み重ねから生まれるもの。無駄なものはない。
多様な価値観を持つことが、直感を磨く。

将棋の世界で必要な能力『直感力』について、どのように身につければ良いのかを、羽生善治氏が解説している。

直感×読み×大局観

「直感」と「読み」と「大局観」。棋士は、この3つを使いこなしながら対局に臨んでいる。一般的に経験を積むにつれ、「直感」と「大局観」の比重が高くなる。これらはある程度の年齢を重ねることで成熟していく傾向がある。「習うより慣れろ」というところだろうか。

「読み」は計算する力といっても過言ではない。従って10代や20代前半は基本的に「読み」を中心にして考え、年齢とともに「たくさん読む」ことよりは、徐々に大雑把に判断する、感覚的に捉える方法にシフトしていく。

 

突如回路がつながる瞬間

棋士は、若い時には計算する力、記憶力、反射神経のよさを前面に出して対局をするが、年齢を重ねるにつれ少しずつ直感、大局観にシフトしていく。直感や大局観は、一秒にも満たないような短い時間であっても自分の経験則と照らし合わせて使うものなので、ある程度の実地経験を積んでからでないと使えない。つまり、成功したり失敗したりした経験を消化して栄養となったものが大切な財産なのだ。

通常、対局中に行うシュミレーションのほとんどが、不利または絶望的な局面だ。それでも、ひたすら気持ちを切らさずに、細い細い隙間を辿っていく。するといつの間にか光が射し、開けた道になることがある。どのコースを行けばいいのかを見極めるためには、記憶を駆使し、データに基づいてその局面での最善手を選んでいくことも必要だが、ずっと同じ位置で、同じ視線で考え続けても、結局答えの見つからないことが多い。

それよりも、その状況を理解するというのだろうか、「ツボを押さえる」といった感覚が自分の中に出現するのを待つことが大事である。その感覚を得るためには、まずは地を這うような読みと同時に、その状況を一足飛びに天空から俯瞰して見るような大局観を備えもたなければならない。そうした多面的な視野で臨むうちに、自然と何かが湧き上がってくる瞬間がある。

考えを巡らせることなく一番いい手が見つけられる。ある瞬間から突如回路がつながるのだ。これを直感という。だから、本当に見えている時は答えが先に見えて理論や確認は後からついてくる。

 

直感とは何か

勝負の場面では、論理的な思考を構築していたのでは時間がかかり過ぎる。そこで、流れの中で「これしかない」という判断をする。そのためには、堆く積まれた思考の束から、最善手を導き出すことが必要となる。この導き出しを日常的に行う事によって、脳の回路が鍛えられる。

直感は、本当に何もないところから湧き出てくる訳ではない。考えて考えて、あれこれ模索した経験を蓄積させておかねばならない。もがき、努力したすべての経験を土壌として、そこからある瞬間、生み出されるものが直感なのだ。

 

多様な価値観を持つこと

直感は、経験によって自然に醸成されていく。そのため、その経験から何を吸収するかが重要である。だからこそ、時には立ち止まって軌道修正が必要かどうかを確認しなければならない。

そして、目の前の現象に惑わされないこと。近視眼的な成果にばかり目を奪われ、あるいはデータに頼って情報収集に終始するだけでは足りない。自分自身の考えによる判断、決断といったものを試すことを繰り返しながら、経験を重ねていく。

つまり、直感を磨くということは、日々の生活の内に様々のことを経験しながら、多様な価値観を持ち、幅広い選択を現実的に可能にすることである。