権力の作用
権力は4つの経路を通じて作用する。
①物理的な力、またはあからさまな強制
実際の強制力の使用、または潜在的強制力
②規範
道徳上の義務と伝統的な義務
③売り込み
説得、人々の好みにいかにアピールするか
④報酬
従う見返りとなる誘因
物理的な力、規範、売り込み、報酬が効果を発揮すれば、権力への挑戦を妨げる障壁は必ず築かれる。
権力の衰退
権力は拡散しつつあり、長い伝統を持つ大きなプレーヤーが、より新しい小さなプレーヤー達から挑戦を受ける事が増えてきている。そして、権力者がその力を使える方法は、これまで以上に制約されている。対抗する国家、企業、政党、社会運動団体、機関、個々のリーダー達が権力をめぐって争っているというのに、権力そのものが衰えつつある。
権力は、挑戦者を妨げる障壁によって揺るぎないものとなる。軍隊や警官隊の武器、資本、資源への排他的なアクセス、宣伝費、専有技術、魅力的なブランド、宗教指導者の道徳的権威や一部の政治家の個人的なカリスマ性など、障壁は、新たな競争相手が重大な挑戦者へと成長するのを妨げるだけでなく、確立されたプレーヤーの支配を一層強いものにしてくれる。しかし、過去30年間にわたって、挑戦者を阻むこの障壁が急激に弱くなっている。
この現象の根底にある原因には、人口動態や経済の変革、ITの拡散だけでなく、政治の変動と期待感や価値観の変化、社会規範などの根深い変化が関連している。
権力が衰退している理由
権力に対する現代の最も大きな挑戦は、生活の基本の変化によってもたらされている。つまり、私達がどのように、どこで、どのくらいの間、どれだけ豊かに生活する事ができるかに。変わったのは、権力が作用する状況である。これは、人口動態、生活水準、健康および教育水準、移住パターン、家族、コミュニティ、私達の姿勢の領域に相当する。それらの変化が権力に与えている影響を理解するには、変化を次の3つに分ける必要がある。
①豊かさ革命
物質的な豊かさの革命は、世界のごく一部の地域や特別な一握りの人間にだけ起きている事ではない。1970年以降、世界のあらゆる場所で生活水準が向上している。人類は以前より基本的ニーズがはるかに満たされていて、今まで以上に長くて健康な人生を送っている。栄養状態や健康状態がよくなり、よい教育と多くの情報を受け取り、もっと他人とつながるようになると、権力を固定していた様々な要因がそれほど有効ではなくなる。人口が増えて、その生活がより満たされると、彼らを厳しく統制し管理する事が困難になる。
②移動革命
現代の人間は移動する事も増えた。この変化は、人々の支配を困難にしているだけでなく、集団内や集団間の権力の配分も変えている。それは、民族や宗教や専門家の分散が進むにつれて引き起こされたり、人を攪乱したり力を与えたりする事ができる個人の考え方や資本や信仰が向かう方向によって実現する。国連によれば、現在世界には2億1400万人の移住者がいて、その数は過去20年間で37%増加している。移民は定住先の国のビジネス、宗教、文化も変えている。そして、移動革命の中で、権力の変革を推し進めている一番強力な要素は都市化である。かつてないほど多くの人間が農村から都市へと移動している。
権力を行使するという事は、領土を支配してまとめるだけでなく、その境界を監視する事でもある。権力には、市民、有権者、投資家、労働者、教区民、顧客などの囚われの聴衆が必要である。しかし、境界を突破する事が容易になり、統治または支配される人々が移動しやすくなれば、その領土に確立された組織にとって彼らを支配し続ける事が困難になる。
③意識革命
途上国の社会的及び政治的不安定の根本的要因は、政府が人民を満足させる事ができるようになるよりもはるかに速いスピードで広がる人民の期待感だ。豊かさ革命と移動革命は、急成長する新しい膨大な中間層を生み出した。彼らは、自分達よりも多くの繁栄、自由、個人的充足感を享受している人々がいる事をよく知っており、それと同じ水準に達したいと望み、期待している。この期待感の革命が、富める国にも貧しい国にも影響を与え、その両方の中間層が政治的混乱を煽っている。