ウイルスと共生する世界

発刊
2021年11月19日
ページ数
328ページ
読了目安
468分
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推薦者

ウイルスの存在理由とは
ウイルスは古代から細胞生物と共生し、生命の進化に関わっていた可能性がある。イギリスの進化生物学者が、ウイルスに関する最新の研究データをもとに、最近になって明らかになってきたウイルスの役割と起源を解説している一冊。
なぜ、新型コロナウイルスのようなパンデミックが発生するのか、そもそもなぜウイルスが致命的な攻撃性を有するのかなど、その仕組みを理解できます。

ウイルスと細胞生物は古代から共生してきた

ウイルスは人類が現れるよりも前から地球上にいたし、遡れば、哺乳類、あらゆる動物、植物、真菌、あるいは単細胞生物であるアメーバよりも古くから存在していた可能性がある。

地球上には10の31乗の種類を超えるウイルスが存在すると推定されている。ウイルスは微生物の貪欲な捕食者であるが、微生物の進化にも重要な役割を果たしている。ウイルスは細胞生物の3大ドメイン(真核生物、細菌、アーキア)内のあらゆる階層で相互作用している。存在するために細胞生物に共生し、依存しているからである。

 

ウイルスは宿主の遺伝子や代謝経路を乗っ取り、「遺伝的共生」と呼ばれる進化様式で宿主の進化を変化させている可能性がある。宿主ゲノムを変化させるウイルスとの遺伝的共生により、細胞生物は、ウイルスの貢献なしにはできなかったであろう新たな進化を享受してきた。

ウイルスが無数の宿主と相互作用する連結帯「ウイルス圏」を構成し、生命が存在するすべての環境にまたがっていることがわかってきたのは、ごく最近のことである。

 

ウイルスと宿主の共生関係

細菌やウイルスなどの微生物は考えない。自身の行動は、宿主との関係で、偶然と進化の基本メカニズムが混在することから起こる。共生とは、仲良く手を繋いで親しくする関係とは限らない。共生には「寄生」「片利共生」「相利共生」があり、共生相互作用として定義される。相利共生は寄生として始まることが多い。実際、自然界では多くの関係が、両極端な寄生と相利共生の間に位置する。

今では、ウイルスは液体でも毒でもないことがわかっている。広い範囲で共生相互作用に従う生物であり、それぞれのウイルスは通常、特定の宿主と強く関わっている。ごく少数のウイルスの宿主がたまたまヒトである。ウイルスは宿主の代謝経路を利用する。よって、ウイルスから宿主を切り離して考えるのは誤りである。宿主の外ではウイルスは生物学的には不活性であるが、これは無機化学物質であることを意味するものではない。

ウイルスは、宿主の標的細胞の外では仮死状態の段階に進化している。この段階は、咳、くしゃみによるエアロゾルとしての噴出に非常に適している。また、糞便や性分泌物中に排泄されるか、あるいは人を刺す虫や狂犬病のイヌなどの二次キャリアによって運ばれ生き残っている。植物ウイルスの場合には、風に乗って、あるいは水を介して、あるいは他の様々な感染経路を介して新しい宿主を見つけるために運ばれる。新しい宿主との絶対的な共生関係に入って初めて、ウイルスは生物のような遺伝的または生物学的な繊細さと効率性をもって振る舞うのだ。

 

なぜウイルスの中には致命的なものがあるのか

エマージングウイルス(新興ウイルス)は、エピデミックやパンデミックの大きな原因である。HIV、エボラ、ラッサ熱、鳥インフルエンザ、SARS、ジカウイルス、COVID-19などがある。ウイルスにとって重要なのは、生存と複製を行うことだけだから宿主を殺せばウイルスの生存は確実に脅かされる。では、なぜウイルスの中には致命的なものがあるのか。

 

宿主との共生の本質的な部分として、ウイルスは攻撃性、時には極めて致死的な攻撃性を持つ。ウイルスが宿主の遺伝的環境を宿主にとって有益なように変化させるとすれば、宿主に対する進化の圧力は、この利益によって進化による発展が選択されるのを確かなものにしている。

感染に対する抵抗性は「主要組織適合遺伝子複合体」と呼ばれる染色体領域によって決定される。そして、遺伝子変異が感染に対する反応を決める重要な役割を果たす。組織適合遺伝子型は遺伝する。次の世代に命を受け継ぎながら、致死性に対する抵抗性が選択されているのだ。こうした攻撃性によって、ウイルスは新しい宿主との安定した共生関係を確立する。

 

宿主はウイルスが複製できるように、自身の細胞機構と遺伝機構をウイルスに提供する。ウイルスは宿主の進化による成功を推し進め、共生相手に寄与する。その1つが、競争相手の宿主を死に至らせるというものだ。ウイルスは宿主のライバル種や同じ種のライバル集団に対して攻撃することがある。

こうしたウイルスが競争相手の宿主を殺すという利点は、ヒト集団でのCOVID-19も同様だ。ヒトと動物のウイルス性疾患は、多くが人畜共通感染症に由来することがわかっている。エボラ(コウモリ)、ラッサ熱(げっ歯類)、狂犬病(コウモリ)、インフルエンザ(水鳥)、ジカウイルス(サル)、黄熱病(サル)、SARS(コウモリ)、HIV(チンパンジー)などだ。ヒトに対して攻撃的な行動をとったこれらのウイルスは、長きにわたり確立されてきた動物宿主との関係では、攻撃性がほとんどない。

 

ウイルスが自然界の様々な動物を宿主としていること自体は問題ではない。問題は、人口が急増したことで、森林や熱帯雨林など原生自然地域へ侵入する機会が増え、野生生物との接触が避けられなくなっていることにある。我々の行動がもたらす避けられない結果の1つが、攻撃的なウイルスによるアウトブレイクである。