シリコンバレーは日本企業を求めている

発刊
2021年10月27日
ページ数
296ページ
読了目安
319分
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日本でCVCを成功させるために必要な基本的な考え方
日本のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の課題を挙げながら、その解決手段を提唱している一冊。
近年、多くの日本企業がCVCを立ち上げ、ブームになっているにもかかわらず、そこからイノベーションに成功している事例は少ない言われる。なぜ、日本企業はCVCに失敗するのか。これまでのCVCの歴史と課題を解説しながら、どのようにすればCVCを成功させられるのかを説いています。

日本のCVCが失敗する理由

今、世界中の大企業がイノベーションを求めてCVCに力を入れている。新しいアイデア、未知の才能、革新的な技術を外部から貪欲に取り込み、自社の経営資源と掛け合わせて、次の爆発的成長を生み出す。それ以外に生き残る術がない。

旺盛な資金需要を持ち、技術や販路開拓などで大企業の力を借りたいスタートアップにも、CVCからの出資は歓迎される。イノベーションを必要とする大企業と、成長意欲の高いスタートアップにとって、CVCは最も合理的な連携手段の1つと言える。

グローバルのCVC投資は拡大の一途をたどり、2020年には過去最高の731億ドルを記録した。2016年は329億ドルだったので、4年間で倍以上に伸びたことになる。

 

但し、自社の事業や周辺の技術をよく知っているだけでは、CVCを運用し、そこからイノベーションを生み出すことはできない。自社で新規事業を開発するのとは別のスキルやノウハウ、ネットワークが求められるからである。
実際、ほとんどの日本企業のCVCは苦戦を強いられている。グローバルでは4割以上のCVCの価値が投資金額の1.5倍以上になっているのに対して、日本では逆に4割がコスト割れになっている。グローバルのCVCの多くが金銭的なリターンと戦略的なリターンの両方を追求するのに対して、日本の場合、戦略的なリターンつまり事業シナジーを重視する傾向が強いため、一概には比較できないが、別の調査ではリターンも事業シナジーも期待したほど実現できていないという結果も出ている。

 

日本企業のCVCが思ったような成果を上げられていない最も根本的な理由の1つは、活動する場を間違えていることにある。国内では、もっぱら「国内のスタートアップ」を投資対象とするCVCが多く存在する。しかし、世界で最も可能性のある起業家やスタートアップの多くは、シリコンバレーに集まっている。こうした状況下で、投資対象を日本に限定する合理的な理由はない。国内投資にこだわる限り、粒よりの候補を数多く見て、その中から最適な投資案件を選び出すのは難しい。

そして、日本企業の苦戦が目立つもう1つの理由が、日本企業の要求水準の高さにあると考えられる。結局のところ日本企業の多くは、誰が見ても文句のつけようのない技術やアイデアを持つスタートアップを求めている。実際、そういうスタートアップもごく稀に存在するが、彼らが希望するのは日本企業ではなく、例えばGAFAとの連携である。

 

日本のCVCの課題を解決する「CVC4.0」

日本のCVCの課題は大きく4つある。

 

①ナレッジと人材の不足

②投資の基本的な方針が定まっていない

③元本割れを過度に恐れてリスクが取れない

④グローバル展開力の弱さ

 

これら4つの課題を解決すれば、日本企業のCVCを実りの多いものにできる。しかし、CVCは、これまで少しずつ進化しながらも、イノベーションにつながらない状況を打ち破ることができないまま、近年まで来てしまった。

 

  • CVC1.0
    外部のベンチャーキャピタルなどがセネラルパートナー(GP)となって組成したファンドに、複数の事業会社がリミテッドパートナー(LP)として数億円ずつ出資。しかし、GPの目的はあくまでも金銭的リターンで、LP企業の思惑とは別に、儲かりそうな案件に投資を集中することになる。
  • CVC2.0
    自社の子会社としてファンドをつくり、社内の人材がGPとして運用管理。これなら投資対象も協業も、自社だけで意思決定して進めることができる。しかし、GPとしての知識や経験が不足。社内の人材では発掘できる案件も限られ、その成長性を見極めることも容易ではない。
  • CVC3.0
    外部の専門家を採用して運用を任せ、知識と経験の不足を解消。しかし、事業会社の看板を背負うCVCはどうしても警戒されがちで、独立性の高いベンチャーキャピタルに後れをとることになる。

 

これらCVC1.0〜3.0のすべての課題を抜本的に解消する仕組みがCVC4.0である。CVC4.0は、事業会社と外部のベンチャーキャピタルが1対1でタッグを組み、専用のファンドを設立して運用する。事業会社がLP、運用主体となるVCがGPとなる二人組合方式である。

ここでまずすべきことは、目的が経済的なリターンなのか、戦略的なリターンなのか、その両方なのかをあらかじめ明確にすることである。その上で、ベンチャーキャピタルが投資先を発掘する。但し、決めるのはあくまでも事業会社なので、意に沿わない運用に陥る心配はない。

CVC4.0は企業が出資する外部のファンドなので、事業会社の色が薄められる。その結果、より多くの有望なスタートアップに出会い、連携の機会を探れるようになる。また、ファンドとしての独立性を高め、意思決定に関する権限を事業会社本体からCVCに委譲することで、機動的な対応も可能になる。