お金のむこうに人がいる

発刊
2021年9月29日
ページ数
272ページ
読了目安
263分
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経済のしくみをシンプルに考える本
お金の仕組みをとにかくわかりやすく解説している一冊。なぜ日本の借金が増え続けても破綻しないのか、なぜ老後のためにお金を貯めても、社会全体では年金問題は解決しないのかなど、経済の根本的な仕組みがわかります。

お金のむこうには必ず「人」がいる

私たちはつい、お金を使ってモノが手に入ると感じてしまう。しかし、この時の「使う」は、「消費」ではない。自分の財布の外を見れば、お金は他の財布へ流れていることに気づく。あなたが消費しているのは、お金ではなく、誰かの労働だ。私たちは自分の労働を提供してお金をもらい、そのお金を使って誰かの労働を消費している。

 

日曜日に働いている人がいなければ、日曜日にお金を使うことはできない。働く人がいなければ、お金は力を失う。この「日曜日」を「老後」に置き換えて考えると、老後の問題はお金を貯めることだけでは根本的な問題解決にならないことがわかる。

 

社会は、自分の財布の外側に広がっている。私たちは一人ひとりは助け合っている社会の一員だ。ところが、自分の財布の中のお金だけを見て暮らしていると、登場人物が自分だけになる。社会の話が、自分と切り離された話になる。だから「お金さえあれば生きていける」と錯覚してしまう。
老後の生活の不安をなくすためには、お金さえ蓄えておけば大丈夫だと多くの人が信じている。しかし、みんながお金を握りしめて老後を迎えても、働く人がいなければどうすることもできない。みんなが上手に資産運用してお金を増やしたとしても、年金問題は解決しない。

 

個人にとってのお金の価値とは、将来お金を使った時に、誰かに働いてもらえることだ。そして、その反対側には働かされる人が必ず存在する。社会全体にとって、お金(紙幣)を増やしても、価値が増えないのはそのためだ。そして、モノが手に入るのは、誰かが働いているからだ。お金は交渉に使われるだけで、必要不可欠ではない。

あなたはお金をもらって働いている。何らかのモノを作ったり、何らかの問題を解決している。その仕事から生み出される効用が誰かを幸せにしている。みんなが働くことで、みんなが幸せになる。これこそ本来の「経済」の目的なのだ。

「お金」に惑わされず、「誰が働いて、誰が幸せになるのか」を考えればいいだけだ。大事なのは、みんなが生きている空間を意識して経済を捉えることだ。

 

社会全体の問題はお金では解決できない

銀行は私たちから預かったお金を誰かに貸している。私たちは、お金を銀行に「保管」してもらっているのではなく、貸しているのだ。つまり、私たちの預金残高は、銀行が借りている借金残高でもある。銀行が預金残高を増やすには、誰かに借金をしてもらうしかない。
銀行はこれを繰り返すことで、個人と企業の預金残高が1253兆円を作り出した。これは、銀行が1253兆円も借金しているということだ。個人や企業の預金残高を見て、日本がお金持ちの国だというのは、全くの見当違いだ。借金が多いからだ。私たちは、ただ貸し借りを大きく膨らませているだけなのだ。

 

預金を増やすことはできる。だが、それは貸し借りが増えているだけで、お金自体が増えているわけではない。社会全体で何かの価値が増えているわけではない。社会全体にとって重要なのは、お金を増やすことではなく、お金を流すことだ。

人を中心に経済を考えると、お金はただ流れているだけだと気づく。私たちが働くことでモノを作り出し、その効用で誰かの生活を豊かにしていることが明確になる。

 

お金にできることは、労働の分配とモノの分配でしかない。お金を増やしても、労働不足もモノ不足も解決できない。私たちが直面している年金問題も、労働不足、モノ不足の問題が絡んでいる。根本的な原因は、高齢者が増加し、現役世代と呼ばれる働く人の割合が減少することにある。現役世代が減少していくと、生産力も減っていく。必要なモノが手に入らず、生活できなくて困る人が出てくる。社会全体の問題はお金では解決できないのだ。

 

政府の借金は誰かの預金を増やしている

日本の借金の総額は1000兆円を超えている。この状況を見て、将来世代に押し付ける借金がどんどん増えていると心配する声は大きい。しかし、日本は破産しないし、国債が暴落することもない。将来の世代は働かずに借金を返すことができる。

 

政府がお金を使う時、そのお金を受け取って働く人が必ずいる。私たちの生活が豊かになるのは、彼らが働くことによって効用が生み出されるからだ。日本政府の借金については、そのお金で働いてくれた人が国の中の人である限り、働いて返さなくてもいい。国の中にある財布から財布へと移動しているだけだからだ。
政府が借金した分だけ、個人や企業の財布のお金は増えている。どれだけ時間が経っても、そのお金はどこかに存在していて誰かが相続している。政府が借金を返すために個人や企業から税金を徴収すれば、いつでも1000兆円を集めることができるのだ。

 

財政的に破綻した国に共通するのは、他の国に働いてもらいすぎたことだ。幸いなことに、日本が蓄積してきたのは大量の貿易黒字だ。将来、外国の人に働いてもらえることはあっても、働かされることはない。