脱炭素社会へ向けた世界の動き
2020年の冬以降、「脱炭素」は注目のワードになっている。アメリカのバイデン政権の積極的な気候危機対策であるグリーンディール政策の大規模な推進や、日本も菅政権発足後、政策の柱として「脱炭素」「DX」を掲げるなど、今まで欧州主体だった流れは、既に世界のトレンドになっている。
そもそも脱炭素化に向けた取り組みが求められている理由は、脱炭素化が「地球温暖化」をこれ以上進めないための重要なアクションだからである。2015年12月にパリで開催されたCOP21において、世界約200カ国が合意しパリ協定が成立した。パリ協定は、産業革命前と比較して世界の平均気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃までに抑える努力を追求することを目的としている。パリ協定の下で国際社会は、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすること、つまり「脱炭素化」を目指している。
従来は、エネルギー消費量とビジネス成長は正比例だった。しかし、今後はCO2を排出しない自然エネルギーを活用しなければならず、かつ、エネルギー使用量を減らしながら、ビジネスを成長させていかなければならない。こうした、経済成長を維持しつつ、エネルギー消費を減らしていく考え方は「デカップリング」と呼ばれている。英語が意味する通り、両者を切り離すということである。経済成長とエネルギー消費量の反比例が大きければ大きいほど、脱炭素社会時代での持続可能性が高まる。
もはや経済成長と気候危機問題解決を両立しなければ企業を持続させられない経営環境になっている。例えば世界の国々でハイブリッド車を含むガソリン車の新車販売規制が進んでいる。EUは、ハイブリッド車を含むガソリン車の新車販売を2035年から事実上禁じるとし、「炭素国境調整措置(国境炭素税)」の導入も盛り込んだ。「国境炭素税」とは、規制が遅れている国からの輸入品に関税を課す政策である。国境炭素税は、アメリカでも検討されている。これらが進むと、気候変動問題に対応できていない国や企業は大きな苦境に立たされる。
ゲームのルールが変わりつつある
資本主義の成長期は、エネルギー消費量を気にせずに大量に物を作り、顧客に消費してもらう、大量生産・大量消費モデルだった。しかし、現在モノあまりの時代が到来している。なおかつ、生産のためのエネルギー消費により、地球には危機的な状況が巻き起こっている。
こうした状況を打開するために、欧州を中心に、循環型生産消費モデル「サーキュラーエコノミー」が推進されている。生産や流通での消費エネルギーを再エネで賄い、かつ省エネを推進し、商品も長く使い、そして最終的には廃棄ではなく回収するなどして、社会の中で資源をできる限り循環させる仕組みである。
企業にとっては制約だらけとも思えるモデルだが、制約があるからこそ多くのイノベーションを生み出す可能性を秘めている。
脱炭素DX
脱炭素DXとは「企業がDXを通じて持続可能なビジネス成長と脱炭素社会創造を同時に実現すること」と定義される。脱炭素社会創造のためには「脱炭素DX」という一体化した概念が必要である。
CO2の排出量を抑えながら経済成長を促す「デカップリング」経済モデルを進めるには、「炭素生産性」という考え方が必要である。「炭素生産性」とは、GDPや企業・産業が生み出す付加価値を、CO2排出量で割った数値として示される。
炭素生産性の高いモデルへの変革には、デジタル技術の本格的な活用が不可欠である。そして、デジタル技術の活用によって変革を成し得るためには、デジタル技術に対する出費を改善のための「コスト」ではなく、変革のための「投資」と考える視点も重要である。炭素生産性を高めるには、次の7つの要素が重要である。
・分母(CO2排出量)を減らす
①エネルギー・シフト(エネルギーの脱炭素化)
商品の生産に使うエネルギーについて、CO2を排出しない自然エネルギーの採用とエネルギー消費量の抑制。
②ロジスティックス・シフト
商品の配送時に非炭素エネルギー利用の運送利用、配送の効率化。
③マニュファクチャリング・プロセス・シフト
製造過程での省エネ推進、CO2排出を抑制。
④サーキュラー・シフト
不要になったものを回収し、再度資材として活用すること。
・分子(付加価値)を増やす
⑤プロセス・デジタライゼーション(業務プロセスのデジタル化)
⑥カスタマー・エンゲージメント(顧客との共感・共創)
社会の脱炭素化は顧客の関心事でもあり、共通のゴールである。目標の達成に向けては、脱炭素化に伴い多大に投資をして作った商品やサービスを顧客に購入してもらったり、使用済み商品の回収時の協力を依頼したりすることになる。そのためには自社の商品や取り組みをしっかりと伝え、顧客に共感してもらえるマーケティング・コミュニケーションが重要になる。
⑦サステナブル・サービス・デザイン
モノをいかにサービスに落とし込むかが重要である。サブスクリプション・モデルだけでなく、モノを作らないサービスを創造することをも意味する。