観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか

発刊
2021年9月7日
ページ数
240ページ
読了目安
229分
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観察力を鍛え、創造力を高める方法
いいクリエイターの条件は「観察力」。観察力を鍛えれば、インプットの質が上がり、アウトプットの質も上がる。観察力を鍛えることこそ、創造力を高める方法だとし、観察力の鍛え方を紹介しています。

観察とは

「いいクリエイターの条件は何ですか?」という質問をよく受ける。そのたびに「観察力だ」と答えている。観察力が鍛えられてくるとインプットの質は上がる。特別な努力をしなくても、日常的に質の高い情報がどんどん蓄積される。そしてインプットが溜まってくると身についてくるのが、俗にいう「感性」と呼ばれるものだ。感性が上がると、今度は気づくことの質と量も圧倒的に増える。アウトプットの質も上がってくる。この軌道に乗りさえすれば、指数関数的に成長していく。

 

いい観察は、ある主体が、物事に対して仮説を持ちながら、客観的に物事を観て、仮説とその物事の状態のズレに気づき、仮説の更新を促す。一方、悪い観察は、仮説と物事の状態に差がないと感じ、わかった状態になり、仮説の更新が止まる。
仮説は、問いと仮説の無限ループを生み出すもので、その無限ループ自体が楽しいものであるため、漫画をはじめとする様々な創作の源になり得る。

 

観察を阻むもの

何が観察を阻み、観察できない状態にさせてしまうのか。悪い観察を避けることができれば、いつかよい観察ができる。

 

①認知バイアス

「常識・偏見」が観察を阻むものの代表だ。私たちは、目で観察しているのではない。脳で観察している。脳の中で何を見ようか先に決めていて、脳が見たいものを追認するような形で見ているだけだ。「言葉・概念」という思考に必要なものも、観察を促進する道具であると同時に阻むものである。

既存の認知が、観察を阻害する。悪い観察は、既存の認知が全く更新されない、既に知っていることを前提として観てしまう状態だ。

 

②身体・感情

観察は、私たちの身体・五感を通じて行われるため、その状態によって観察の質は大きく左右される。だが、認知が自分の思考に大きな影響を及ぼしているとなかなか気づけないように、感情の影響も気づくことが難しい。

私たちは「感情」のフィルターを通して観察をする。その時、感情の扱いには注意が必要だ。なぜなら、自分の感情は周りから選ばされているに過ぎないからだ。

 

③コンテクスト

過去の出来事を知ることで、情報の意味は全く変わるが、時間軸の前後を意識することなく、その瞬間だけで判断してしまうことが実は多い。対象の物だけを観察しても、観察を誤る。時間・空間のコンテクストを同時に観察することで、対象に迫ることができる。

観察力を鍛えて、世界を見る解像度を上げていくには、対象だけでなく、コンテクストまで含めてみることが大事だ。問題なのは、コンテクストは固定化されていないから、自分がうまくコンテクストを観察できているのか、どこまでも確認できないということだ。

 

観察を阻害するといった時、これら3つの要因がバグを起こしやすいと意識しているだけで、観察の精度は変わってくる。この3つを総称して、「メガネ」と呼んでいる。多くの人はこのメガネに対して、「自分はメガネなんてかけていない」と思い込んでいる。この「メガネ」を理解することが、観察を促進する。

 

「仮説」を起点に観察サイクルを回す

人は「メガネ」(認知バイアス、身体・感情、コンテクスト)をかけてしか対象を観られないのであれば、そのメガネを意識的にかけかえればいい。その「意識的なメガネ」というのが「仮説」だ。

観察とは、仮説と対象のズレを見る行為だ。仮説と対象はぴたりと一致することがない。限りなく近づくけれど、仮説と対象はどこまでもズレている。

いい観察が行われると、問いが生まれ、その問いから仮説が生まれる。そして、次の新しい観察が始まる。その繰り返しによって、対象への解像度は上がっていく。とにかく雑にでもいいから、仮説を立てる。そうすると、仮説を検証したいという欲望が生まれ、熱量のある観察が始まる。

 

仮説の立て方

①目に映るものを言葉に置き換える

まずは、見たものをちゃんと言葉にする。言葉にしていると、自然と問いが浮かび上がってきて、仮説が生まれる。頭に浮かぶ漠然とした印象という「抽象」的なものを、言葉という「具体」に一度、落とし込む。その具体の集合から、作者の意図などの「抽象」を推測する。こうした「抽象→具体→抽象」の作業を繰り返すことで、観察の質は上がる。

 

②外部の「評価」を参照軸にする

外部情報なしにディスクリプションをして仮説を作ると、思い込みの強い仮説が生まれるので、面白い発見にはつながるかもしれない。しかし、これは独りよがりで、観察のサイクルが止まるリスクもある。そんな時に有効なのが、外部の情報、他者の評価を仮説にして見ることだ。

 

③記憶は信用せず、データに当たる

記憶は、保存している内に歪んでいく。そこで、統計データがあるものはデータに当たる。データから仮説を作ったり、更新したりする方法は有効である。

 

観察力を鍛えるには、客観と主観、具体と抽象を、適切なタイミングで行き来する必要があり、その切り替えのタイミングを理解して行くのが、観察力を上げる肝と言える。