起業の術はミュージシャンに学べ
ミュージシャンは自分が培ったマインドセットによって優れた起業家にもなれる。音楽はビジネスにとって欠かすことのできない考え方と行動の仕方を培ってくれるものだ。特に今日の複雑で先の見えない世界においてはなおさらだ。
芸術家と起業家がより良い成果を出すのは、どちらも耳を澄まし、実験を行い、誰かと共同で作業し、デモを作り、プロデュースし、絆を作り、リミックスを施し、感じ取り、絶えず自身を上書きする時だ。
耳を研ぎ澄ます
音楽のマインドセットを使えば、予定調和に縛られず、新しく美しいものを発見できる。ミュージシャンは、例えば空白に耳を澄ませパターンを破る瞬間を生み出し、すき間を埋め、注目を集め、刺激を与える術を心得ている。それができるのは、キーボードやマイクでスキルを磨いたからだけでなく、聴く力を研ぎ澄ませてきたからでもある。
自分の周囲と内なる声に耳を傾ける術を身につけた音楽家や起業家たちに共通するのは、予期せぬことをその場でオープンに受け入れている点だ。創造力を駆使する、活気ある会社を築き上げていく、チームを率いる、そのいずれの場合も音楽的なマインドセットが重要な役割を果たす。そのために必要なのは、音符と音符とのすき間に耳を傾けるスキルだ。直感を研ぎ澄ませて、すき間にあるものを感じ取ることだ。
耳を傾けることを身につけることはお得なスキルではなく、本質的で必要不可欠なものだ。そして実践を積むことによって、マーケットで提携のチャンスを見つけることから観客との絆を築くことに至るまで、起業活動のあらゆる段階に応用できる。耳を傾けて、気づき、感じる。沈黙から生まれる可能性を見出す。
実験を積み重ねる
ミュージシャンは常に動いて進化している世界に対応できる存在だ。ただ漫然とプレイするだけではない。プレイの仕方を心得ている。
音楽の実験は入念な計画や確固たるメソッドから始まることはない。アーティストがいろんなことを試すほど、土台となるアイデアが浮き彫りになる。デジタルによって実験の場は取って代わられたが、ミュージシャンは昔から常に音を使って、音楽の持つ意味と音楽が生まれる過程をあれこれ試していた。アイデアを追求し、何度も挑戦するだけの余裕を持つことはアーティストだけの特権ではなく、ビジネスにおいても役立つことだ。
実験のマインドセットの根本にあるのは、強い好奇心と発見への意志だ。新たな洞察に至ったり、全く新しいものが生まれたりするなど、実験は本質的にポジティブな精神の表れであり、その根本にあるのは探求し遊ぶことで何か面白いものが生まれるという信念だ。
イノベーター、ビジネスリーダー、ミュージシャンあるいはその全部を兼ねる人たちにとって大切なのは、実験を通じて探求し発見しようと懸命に打ち込むことだ。
コラボレーションする
成功させるためには他の人たちのスキルや才能が必要だ。アーティストや起業家には一匹狼というイメージが付きものだが、そのイメージ通りに荒野から自分のビジョンを掘り返したところで、それが必ずしも最高の結果を得る最高の方法とは限らない。
アイデアに可能性を見出して、才能あるパートナーやチームメイトの才能を通じてアイデアを煮詰めていく。コラボする場合、ふさわしい相手を選ぶことが必要不可欠だ。誰と組むかによって、もらうエネルギーも違ってくる。どんな分野でも誰かと組んで何かを作るとなると、一度に2つのことが求められる。まず自分のスキルに自信を持つこと。それができないと他からお呼びがかからない。2つ目に他の人に興味を持つこと。それができて初めてビジョンと目的を共有して一緒に素晴らしいものを築き上げることができる。
完成品を作るな、試作品を作れ
会社の開発戦略は過去の成功や失敗の分析から始まることが多い。しかし、歴史を繰り返したいのならともなく、全く新しいものを生み出そうとするなら、こうしたアプローチはあまり役に立たない。まずは行動しなければブレインストーミングも意味がない。
IDEOでは、作り始めれば何を作りたいのかがわかる、という企業哲学がある。準備するのではなく、とにかく始めること。概略を書いて模型を作る。絵コンテや縮尺模型を使えばサービスだって視覚化できる。ロール・プレイを使って顧客との相互作用やサービスの有効性をチェックするのもいい。だがまずは作ることから始めることだ。
ビジネスではこれを試作品と呼び、音楽の世界ではデモテープと呼んでおり、どちらの場合もクリエイターのマインドセットが反映される。本質的にデモはラフで大まかで、ざっくりした作りだ。手早く作られたデモのおかげで、アイデアに見切り発車で飛びつくこともなく、試作品だからボツにして捨てることもできる。デモテープは手早く仕上げて粗削りのままにすることが大事だ。そこからアイデアを深めていくことができる。