わたしたちを救う経済学──破綻したからこそ見える世界の真実

発刊
2019年7月17日
ページ数
448ページ
読了目安
766分
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欧州経済はなぜ危機的状況から抜け出せないのか
ユーロのシステム上の欠陥と歴史的背景を説明しながら、現在も不安定な欧州経済の問題を解説している一冊。ギリシアをはじめとする多額の債務国をどのようにすれば立て直すことができるのかがわかります。

欧州通貨危機の遠因

欧州の共通通貨の危機は、その遠因を1971年の出来事、すなわち欧州がいわゆる「ドル圏」からニクソンとコナリーとヴォルカーによって切り捨てられたことに求めることができる。ニクソン大統領が1971年に引導を渡した金融システムは、1944年に米国ブレトンウッズにあるホテルの会議室で誕生した。欧州の戦争で犠牲になったものの1つが通貨だった。ナチに占領された国々では、親独政権が現地紙幣を大量に印刷しまくって枢軸国の戦争体制を支えたため、欧州の人々の懐にあるお金は、それが印刷されている紙ほどの値打ちもなくなった。国際貿易の場において、通用する通貨として唯一残ったのはドルであり、ドルのみが世界貿易を円滑に支えることができた。

欧州には新しい通貨に価値を持たせる何かが必要だった。そこで、ドルとの固定為替レートで裏打ちされた新規の欧州通貨が発行された。米国は、ドルと金の交換レートを固定して完全兌換性を保証した。この新たな仕組みはブレトンウッズ体制として歴史に刻まれた。

晴れの日だけの黒字還流システム

欧州をドルに依存させることは、別の問題を生じさせた。ドルに支えられた固定為替レート制は貿易収支の不均衡を拡大させ、最終的にはひどい悪影響を、最初は赤字国に、その後はすべての国々に及ぼした。

ある国の赤字は別の国の黒字である。不均衡の世界では、黒字経済が赤字経済に対し、彼らから買うよりもたくさん売ることで黒字をため込み、その黒字は、彼らの銀行に蓄積されていく。為替が固定されている場合、銀行の融資によって赤字の経済でも黒字経済からどんどん買い続けることができる。黒字経済は輸出ブームで急成長する。輸出入ビジネスがそこら中で儲けを拡大し、黒字国でも赤字国でも同じように所得が増大する。金融システムへの信頼は肥大化し、黒字はさらに拡大し、赤字も深まる。金融業に晴天が続く限り、好調時の黒字還流システムは持ちこたえる。しかし、永遠に持ちこたえることはできない。好天時だけの黒字還流システムはその宿命としてクラッシュを招き、すべての黒字還流を停止させる。それが2008年以来、欧州で起きていることだ。

固定為替レートの代償

対照的に、国の貨幣の価値が柔軟である場合は、それが緩衝材のように働き、持続不可能な貿易とマネーフローが生み出す金融危機によって引き起こされる急激な動揺を吸収する。持続不可能な金融手法が2008年にアイスランド経済を崩壊させた時、アイスランドの通貨は暴落した。そのおかげでアイスランドがカナダや米国に輸出していた魚類の価格が二束三文になったため収益は上向き、現地通貨建てだった債務が縮小した。これがアイスランドがひどいショックの後、すぐに回復した理由だ。

しかし、赤字国の通貨が、黒字の貿易相手国の通貨といつも同じ比率で交換される場合、その国際的な価値は固定されている。一旦連鎖倒産が始まると、所得が低下する一方、外国銀行から借りた民間や政府の債務は変化しない。国民の大半を借金の束縛に陥れ、国は停滞する。

共通通貨ユーロの欠陥

ブレトンウッズ体制が健全であるのは、米国が残りの世界全体に対して黒字であることが条件だった。しかし、米国が欧州や日本の製品の購入に支払う金額が、外国人が米国製品を購入する金額を常に上回るようになった時、物事はうまくいかなくなった。そして、1971年、欧州はドル圏から投げ捨てられた。

欧州の対応は、欧州自前のブレトンウッズを作るというものであり、最終的に共通通貨ユーロによってそれを成し遂げようとした。だが通貨同盟が直面するマクロ経済的な諸問題に無知だったため、彼らが作り上げたシステムにはショックを吸収する役割を果たすものがすべて排除されていた。その影響は何十年も経った今でも欧州に付きまとっている。