違う視点で物事を捉えるために多様性が重要
新製品の開発から疾病の治療、気候変動や貧困の問題まで、一筋縄ではいかない問題を解決しようとする際には、正しい考え方ばかりではなく「違う」考え方をする人々と協力し合うことが欠かせない。複雑な物事を考える時は、一歩後ろに下がって、それまでとは違う新たな視点からものを見る必要がある。
現代社会が直面する難題には、ほぼすべてチームで解決に当たっているが、その理由はシンプルだ。個人で挑むには問題が複雑すぎるからである。個人個人の能力ばかりでなく、チームや集団全体を見る姿勢が欠かせない。それでこそ高い「集合知」を得られる。そこで重要なカギとなるのが、多様性だ。
一口に多様性といっても様々な種類がある。
・人口統計学的多様性:性別、人種、年齢、信仰などの違い
・認知的多様性:ものの見方や考え方が異なる
通常は、人口統計学的多様性が高いと認知的多様性も高くなることが多い。背景が異なれば、考え方も異なりやすくなる。
認知的多様性は、競争優位を勝ち取る上で最も重要なカギの1つだ。成長や改革の確かな足掛かりとなる。直線的ではない複雑な問題の場合、誰が正しくて誰が間違いという明確な線引きは難しい。肝心なのは、異なるレンズを通してものを見てみることだ。そこから新たなヒントや解決策が見えてくる。視点が多様化すればするほど、見つけられる有益な解決策の幅が広がる。
視点があるからこそ盲点がある。我々はみな、自分自身のものの見方や考え方に無自覚だ。誰でも一定の枠組みで物事を捉えているが、その枠組みは自分には見えない。結果、違う視点で物事を捉えている人から学べることがたくさんあるのに、それに気づかずに日々過ごしてしまう。
問題を理解したり解決したりするためには、そもそもその問題が見えていてこそだ。こういう場合に欠かせないのが、多様な視点で、自分の盲点に気づかせてくれる人々である。
画一化の罠
取り組む問題が単純な場合、1人で問題空間(問題解決やゴール達成に必要な洞察力、視点、経験、物事の考え方など)の情報をカバーできる。しかし、問題が複雑になると、1人ではカバーしきれない部分が出てくる。どれだけ頭のいい人でも欠けている知識はあるはずだ。
ここで見えてくるのが画一的な集団の危険性だ。同じような考え方の人々の集団は、一人ひとりは頭が良くて知識が豊富でも、互いに知っていることも視点も似通っている。いわばクローンの集団だ。
人は同じような考え方の仲間に囲まれていると安心する。ものの見方が同じなら意見も合う。すると自分は正しい、頭がいいと感じていられる。こうした「類は友を呼ぶ」傾向には、いわば引力のような力があって、その集団全体を問題空間の片隅に引きずり込んでしまう。個人個人はどれだけ頭脳明晰でも、同じ背景を持つ者ばかりで意思決定集団を形成すると盲目になりやすい。
難問に挑む前に認知的多様性を実現することが欠かせない。それで初めてミラーリングを避け、高い集合知を得ることができる。
日常に多様性を取り込むための3つのこと
①「無意識のバイアス」を取り除く
無意識のバイアスは、自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念だ。集合知を高める上で、無意識のバイアスを取り除くのは必須の作業となる。
②陰の理事会
陰の理事会では、組織内から広く集めた有能な若手の人材が、上層部の意思決定に関し定期的に意見を述べる。上層部にとっては、多様な意見に触れて視野を広げる「テコ入れ」の機会になる。その結果、反逆者のアイデアがスムーズに流入する。
③与える姿勢
多様な社会において他者とのコラボレーションを成功させるには、自分の考えや知恵を相手と共有しようという心構えが必要だ。そうした与える姿勢があって初めて、受け取る機会を得られる。