失敗を語ろう。

発刊
2021年6月24日
ページ数
248ページ
読了目安
226分
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マネーフォワードが失敗から学んだこと
クラウド会計ソフト、家計簿アプリなどを展開するマネーフォワードの創業者が、起業に至った経緯から、これまでの失敗を語った一冊。
スタートアップにありがちな失敗から得た、様々な学びが書かれています。第一号プロダクトの失敗や組織マネジメントの失敗、事業の危機まで、成功の裏で起きた失敗の数々から、どのような教訓が得てきたのかがわかります。

とにかく打席に立つこと

意を決して会社を辞め、起業をした時には、その直後からドラマティックな何かが起きると思っていた。しかし、現実はそうではなかった。びっくりするくらい、何も起こらなかった。世の中の誰も、自分たちのことを知らない。誰にも期待されていない。注文の電話もなければ、クレームさえない。何もしなければ、何も起こらない、と気づいた。

そして、ある日、とにかくバッターボックスに立つぞと決めた。どんな機能が必要で、ユーザーに対してどんなUXを提供すればいいのか、どんなに考えたって答えは見つからないし、時間も足りない。さらにお金がないので、投資家にアポを取って訪問し、説明して資金を集めなければならない。

 

積極的に参加すると決めたのは「ビジコン」だ。事業モデルをプレゼンするビジネスコンテストの情報を探し出しては出場した。まだ実績のない事業やサービスの計画を、人前でプレゼンするのには勇気がいる。大抵は「足りない部分」を指摘されて、へこむ。しんどかったが、出場しないよりはずっとマシだった。なぜなら負けても必ず学びがあるからだ。打席に立つと、必ず何らかのフィードバックが得られる。

傷つくことを恐れて何も行動しないより、転がりながらでも、たとえ一歩でも足を動かした方が、事態は前に進む上、事業をやっていくための筋力がつく。

 

マネーフォワードはどのように起業されたのか

マネーフォワードという会社をつくった動機は「強烈な憤り」だ。閉塞感のある社会をなんとか変えたいという使命感が起業に駆り立てた。何か1つの決定的な転機があったというより、そこに至るまでの様々な経験が不思議と結びつき、起業に導かれた。

  • ものづくりのビジネスをやるつもりで入ったソニーでは、経理部に配属。紙のファイル地獄にうなされた。
  • マネックス証券CEO室出向者募集という社内公募で、マネックス証券創業者の松本大さんのそばで働く。
  • マネックスの第1号留学に手を挙げ、ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA取得のため留学し、視界が広がる。
  • 短期留学プログラムで、ロンドンビジネススクールに通い、起業家になるという選択肢が浮かぶ。
  • ある日、一緒に起業することになる瀧からメールが届き、ビジネスプランを練るやりとりが始まる。

 

社会のパワーの源は、その社会を構成する一人ひとりのパワーだ。そして、個人のパワーの源として重要なのが「お金」だ。高度成長期には、人任せ、天任せで、多くの人が豊かになれたが、超低成長時代の今はそうではない。

使っていれば自動的にお金のことが学べてお金が増えて、結果的に将来への不安が減り、人生の選択肢が広がる。そんなサービスをつくることができないだろうか。

 

MBA留学から帰国し、マネックス証券に戻り、早速企画書を準備し始めた。マネーフォワードは、はじめは社内の新規事業としてのスタートを目指した。しかし、時はリーマンショックの直後で、今は新規に投資をするべきタイミングではないというのが最終的な回答だった。

土曜の朝9時から13時頃までの時間帯で定例ミーティングを設定し、事業プランを練っていった。最初は、週末起業に賛同して集まった参加者も次第に減っていったが、結果として本気の仲間だけが残った。最終的に集まったのは8人。高田馬場のワンルームマンションを借り、朝から晩まで、プロダクト設計のことばかり話し、手を動かした。

 

ユーザーフォーカスこそ大事

記念すべき初代プロダクト「マネーブック」は2012年春にリリースされた。イメージしたのは「フェイスブックのマネー版」のようなもので、個人が自分の資産でどんな金融商品を買ったり、投資したりしているのかを知り合い限定で公開し、ネットワークを広げていくものだった。

「社会的に活躍している人が、どんな資産管理をしているのか知りたい」という好奇心に応えるもので、原型としてKaChing(現Wealthfront)というアメリカのスタートアップの事例があった。

 

「家計や資産を見せ合うことに抵抗はないだろうか?」という疑問も容易に浮かぶはずだが、創業時特有の盛り上がりの中ではすべての解釈は楽観に傾くもので、「日本は裸を見せ合う温泉文化があるのだから、資産を見せ合うのもきっと平気だよな」と言い合っていた。

 

そして、惨敗。いきなり誰も使ってくれないサービスをつくってしまった。ユーザーの大半は創業メンバーの友達とその友達で、50人にも満たなかった。「マネーブック」は一部のマネーリテラシーの高い、新しいもの好きの好奇心は確かに満たしたかもしれないが、みんなが抱える課題を解決できるプロダクトでは全くなかった。

 

マネーブックの失敗がなければ、今のようにユーザーフォーカスをとことん突き詰める会社にはなれなかっただろう。思いが強い起業家ほど陥りがちなのかもしれないが、世に出ては消えていくプロダクトのほとんどが「開発者目線」「提供者目線」に偏りすぎている。理想が先走りすぎて、ユーザーが見えなくなっているのだ。プロダクト第1号の頓挫から素早くピボットし、半年後の2012年12月には「マネーフォワードME」のβ版をリリースできた。