9つのトラップ
ある種の意思決定において、失敗は例外ではなく、常道となっている。バイアスで私たちがはまる9つの意思決定のトラップは次の通りである。
①ストーリーテリング・トラップ
私たちは複数の事実をつないで一貫したストーリーをつくりあげる。そして、誰かからよくできた話を聞かされると、人はそれを裏付ける要素を探し始める傾向があり、それらを探し当てる。だが、そのストーリーは絶対的なものではなく、意思決定を誤りに導く可能性がある。
このトラップに陥れる精神的メカニズムは、確証バイアスである。持論を支持する情報に注目し、反証となる情報は無視しようとする。確証バイアスは、自分の経験から何かを過信する経験バイアスも煽る。特に、ストーリーが私たちの切望する内容である時、このトラップはさらに強力になる。
②模倣トラップ
帰属の誤りによって、私たちは成功を個人に起因するとみなし、その時の状況や運が果たした役割を過小評価する。さらにハロー効果のせいで、モノや人に対する全体的な評価は、少数の目立つ特徴によって歪められる。また、生存者バイアスによって、失敗した人のことを忘れて、成功した人ばかり焦点を当てる。私たちは、誰かが発案したベストプラクティスからは距離を置いて、冷静になるべきである。
③直観トラップ
意思決定者が直観を信じていいのは、妥当性の高い(予測しやすい)状況と、明確で迅速なフィードバックを伴う長期的な実践経験があるという2つの条件を満たした場合だけである。意思決定が戦略的であればあるほど、直感は役に立たない。戦略的意思決定は滅多に行われないので、その状況は妥当性が低く、フィードバックも不明確だからである。
④自信過剰トラップ
私たちは他社より自分を高く評価しがちである。自信過剰に加えて、将来を楽観しがちである。私たちは、自分たちの計画を「当事者側から」しか見ようとしない。何か計画を立てる際、それが失敗する可能性を全て洗い出すわけでもない。計画を成功させるには多くの好ましい状況が揃う必要があり、小さなミスが1つあるだけで全てがダメになることを見過ごす。
⑤惰性トラップ
組織はリーダーが決めた通りに動くわけではない。社員のエネルギーが注がれる場所と経営資源の配分は、社長の戦略を反映しない。この惰性は、認知バイアスと組織的要因に根ざしている。資源配分の惰性の背後にあるバイアスはアンカリングだ。私たちは数値を推定、あるいは決定しなければならない時、利用可能な数字を拠り所にするせいで、決定や判断が歪みやすい。
⑥リスク認知トラップ
経営者はリスクを避けようとする。過剰なリスク回避は、不合理な楽観主義と同じくらい有害であり、実際に問題を引き起こす。損失回避、不確実性回避、後知恵バイアス、この3つが組み合わさると、それらは企業の中でよく見られる不合理なリスク回避を生み出しやすくなる。
⑦時間軸トラップ
多くの経営者は、短期の収益目標の未達を避けるために、長期的に価値を生み出す投資を怠る。短期主義とは、将来の利益を犠牲にして目先の利益を選ぶことである。短期主義は、現在バイアスと損失回避が結びついたものである。
⑧集団思考トラップ
典型的な集団思考は、意見の相違を封じ込め、既存の意見へと収束させていく。場合によっては、多数派の意見を強化することもある。利害が完全に一致する経験豊かな人であっても、根拠のある批判をするより、グループの調和を保つことを選択する可能性が高い。集団思考は、社会的圧力といくらか関係がある。人は報復を恐れて、多数意見に屈する。
⑨利益相反トラップ
人は誠実であっても、自分の利益になる意思決定をすることがある。私たちはそうと気づかないまま、自己利益の影響を受ける。
意思決定を歪めるバイアスと戦う方法
自身のバイアスを把握するのは非常に難しく、どのバイアスを是正すべきかを事前に知るのは不可能である。バイアスは通常のミスとは違う。存在に気づくだけでは、バイアスを正すことはできない。
しかし、個人とは違い、組織は意思決定のやり方を変えることで、判断の質を改善できる。やり方を変えるには、2つの条件を満たす必要がある。
- 協働:他者のバイアスを是正する
- プロセス:グループを集団思考に陥らせない
リーダーの重要な任務は、「どのように意思決定するかを決める」意思決定アーキテクトになり、組織の意思決定に協働とプロセスを取り入れることだ。良い意思決定アーキテクチャーは次の3つの柱を中心に構成されている。
- 対話:互いに納得し合うだけでなく、相手の言葉に誠実に耳を傾け、メンバー間で真摯に視点を交換する
- 多様性:対話が単なる先入観の衝突に終わらないようにするため、異なる角度から物事を見る
- 組織における意思決定の力学:対話と多様性を抑圧しない