ルポ 日本のDX最前線

発刊
2021年6月7日
ページ数
240ページ
読了目安
259分
推薦ポイント 4P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

日本のDXの具体的な事例
現在、DXの推進を進めている行政および企業7社を取材し、その具体的な取り組みとDXの考え方を紹介している一冊。ほとんどの企業で取り組みが進んでいないと言われるDXは、どのように進めればいいのか。その具体的なヒントとなる事例が書かれています。

DXが進まないのは経営者のマインドの問題

2018年に経産省が発表した『DXレポート』によると、2018〜2022年の日本のIT産業の成長率は、わずか1.1%の見込みに留まる。成長のためのIT投資ができていないということだ。『DXレポート』に込めたのは、「攻めのIT投資の足かせとなっているレガシーシステムを刷新し、DXを進めることで日本企業の競争力を高めていこう」というメッセージである。重要なのは、デジタルを前提として企業文化や仕事のやり方を変え、新たなビジネスモデルを創出し、競争優位性を高めることにある。

 

日本企業は、一度作ったものを長く大事に使う傾向がある。例えば製造業では、一度製造装置を導入したら、改善に改善を重ねて生産性を高めることで、製品1個あたりの単価を抑えてきた。これが競争力となり、「ものづくり大国ニッポン」は形作られた。だが、ITの世界はそうはいかない。

古いシステムを使い続けることは美徳でも何でもない。2025年には21年以上稼働する老朽化したシステムが6割以上を占めることになる。2025年以降、これらをメンテナンスしているIT担当者が一斉に定年を迎える。古びたシステムはサポート終了を迎え、ベンダーの保守も受けられなくなる。

 

しかし、IPA(情報処理推進機構)が行った「DX推進指標を用いた自己診断」の結果、回答した約500社の内9割以上の企業がDXに未着手か、散発的な取り組みに留まっていることが明らかになった。

経営者たちはなぜ、デジタルを使って新たなビジネスモデルを創出することに消極的なのか。『DXレポート』を執筆した経済産業省商務情報政策局の和泉憲明は「カイゼン」が過去に世界に誇れる成果を出してきたからこそ囚われすぎているのではないかと分析する。

「我が国は、何かをカイゼンし、少しでもよくなったら成長した気分になるということを繰り返している。それなりに順調なのに、既存顧客に対して決別を意味するような施策をわざわざする必要があるのかというのが本音でしょう」

「既存顧客が離れたらどうする」「混乱したらどう責任を取るんだ」こう言われてまで変革に舵を切れる経営者はどれぐらいいるだろうか。本当の足かせは、レガシーシステムという技術負債を是とする企業文化やマインドなのだと和泉は気づいた。

 

DXには経営層のコミットメントが不可欠だ。一方で、経営層がIT知識のなさを馬鹿にされたくない一心で関わることを避け、それがまかり通っているケースも見られる。和泉は、経営層に最低限必要なのは「エンドユーザーの普通の感覚」だという。

 

DXを実践、推進している組織の事例

・コープさっぽろ

2020年3月、コープさっぽろは、システム開発の内製化に舵を切るため、新たに30人のエンジニアを採用すると発表した。この時点で、組織内にエンジニアは1人もいなかった。重要なのは、ベンダーやシステムインテグレーターへの丸投げ体質を改善し、主導権を発揮することだ。

現在、コープさっぽろのエンジニアたちが取り組んでいるプロジェクトの1つが、組合員向けサービスのデジタル化だ。具体的には次の3つ。

  1. 店舗と宅配の融合
    店舗で買い物をする人たちは、生鮮食品は持ち帰り、重い物はスマホでスキャンして宅配で届くスタイルを提供する。

  2. CtoCサービスの提供
    コープさっぽろの店舗と物流プラットフォーム上で186万人の組合員が直接取引し合うという構想。既にいくつかのアイデアが実現されている。店内にある「ご近所やさい」のコーナーは、出品する農家が自らの価格を決めて、売上の8割が農家の収入になる。 
  3. ドライブスルー化
    冬場は駐車場や店舗の入り口が凍結し、数m歩くのも危険が伴う。車から降りず、スムーズに商品を受け取れる仕組みを整備していく。

 

・トライアル

早い段階からAI、ビッグデータを駆使して店舗運営の省力化、効率化を図っている。システム開発を内製化し、そのノウハウをスーパーマーケットの運営に応用している。同社は、国内に約100名、中国に約450名のエンジニアを擁し、売り場の欠品や顧客行動を可視化するAIカメラや、セルフレジ機能付きスマートショッピングカートを開発。他社への販売も積極的に行なっている。

トライアルが定義するカスタマーサクセスとは、売り場を舞台とした「メーカーと消費者のマッチング」だ。テクノロジーによって省力化、効率化を進めると同時に、グループ内に物流機能や商品開発・製造機能を持つことで、構造的なローコストを追求し、それが価格に反映される。また、AIカメラなどによって、購買データを蓄積・可視化し、メーカーと協力して、購入率の高い顧客への販促を提供する。