ソーシャルビジネスしかやらない会社
ボーダレスグループは「自分はこんな社会問題を解決したい」という志を持った起業家が集まる「社会起業家のプラットフォーム」である。2007年に創業し、2020年度の年商は55億円、世界15カ国で約1500人が働いている。グループが行っている40の事業は、それぞれが独立した株式会社で行っており、40人の社長がいる。各社が独立経営を行いながらも、資金やノウハウをお互いに提供し合う、相互扶助の仕組み「恩送り経営」が大きな特徴である。
ボーダレスグループは、ソーシャルビジネスしかやらない会社である。ソーシャルビジネスが取り扱うのは、「儲からない」とマーケットから放置されている社会問題。例えば、貧困、難民、過疎化、食品廃棄など。儲かる分野ではないので、誰も手を出そうとしない社会問題にビジネスとして取り組む。
社会的活動を事業として成立させることができれば、公的支援に頼らず、経済的に自走できるようになる。事業が成長すれば、たくさんの雇用を生み出し、その課題解決に従事する人も増える。事業として取り組むことでより早く、さらに大きなインパクトを生み出すこともできるようになる。
社会問題を解決するためのビジネスは非効率を含んだ上で成立させなければならないため、従来のビジネスよりも少し難易度が高くなる。マーケットでは、通常の効率の良いビジネスと同じ土俵で勝負しなければならない。そのため、価格競争をするのではなく、いかに付加価値を高めるか、ということが絶対条件になる。通常の2倍のコストがかかるとしたら、2倍の価格をつけても成立するビジネスモデルをいかにデザインできるか。それを問われるのがソーシャルビジネスである。
社会起業家のプラットフォーム
ボーダレスグループは、起業や経営に必要なノウハウ、人材、資金などを共有している。それぞれが独立した経営を行いながらも、社会起業家たちがお互いに助け合う相互扶助のシステムである。
①起業家採用
社会起業を目指す人たちを迎え入れ、ビジネスプランニングの伴走から始める。新卒・第二新卒の場合には1年間修行の場も提供している。具体的には、起業を目指す3人1組に1000万円を渡し、実際に起業してもらう。起業するための力をつける一番の近道は実際に起業してみることである。
1年間の修行が終わったら、自分自身のビジネスプランをつくる。ビジネスプランが完成したら、グループ各社の全社長が参加する会議(社長会)で発表し、全員の賛同を得られたら会社を設立する。
②資金提供
社長会でビジネスプランが承認されたら、返済不要の事業資金を1500万円提供する。起業家は、事業資金の1500万円を自由に使えるが1つだけルールがある。それは、資金が尽きたら事業は一旦終了ということ。経営がうまくいかない時に、物理的に止まる仕組みである。但し、再び社長会で、練り直した事業プランが全会一致で承認されれば、新たに1500万円が支給され、何度でもトライが可能である。
③スタートアップスタジオとバックアップスタジオ
顧客を惹きつけるデザイン開発、そして少ない予算の中で効果的なプロモーションを行うことは、立ち上げ期のマーケティング専門にやったことのない人には難易度が高い。そこで、数々の事業立ち上げ支援してきたマーケティングやデザインの精鋭部隊が、事業が単月黒字化するまで無料でサポートする。
ボーダレスグループには「共通のポケット=お財布」がある。グループ各社が自分たちの余剰利益を共通のポケットに入れ、みんなで共有している。この余剰利益は、新たなビジネスを立ち上げる起業家への支援に使われる。
これを「恩送り」と呼んでいて、ボーダレスグループの相互扶助エコシステムの柱となっている。この仕組みでは、仲間がたくさん集まり、成功する事業が増えるほど、より多くの余剰利益が共通のポケットに入ってきて、その分多くの社会起業家の誕生を支えることができる。
ボーダレスグループに関わる大事なことはすべて、グループに参加する全社長の合議によって決まる。全員が等しく1票を持ち、拒否権を持つ。全員賛成が原則である。例えば、新たにビジネスを始める場合にも、全社長が集まる「社長会」で事業プランを発表し、全会一致の賛成をもって可決される。一人でも反対すれば、却下、やり直しである。合議制を採用するのは、ボーダレスグループが社会起業家の集まりであるからである。自分の責任で動くリーダーの集まりである。その主体的な実感を持つためには、実際に1人1人の意見が尊重される全会一致の合議で物事が決まっていくという事実が大切である。