失敗の本質
ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄。これら6つの敗戦に表出した日本軍の失敗の要因は次の通りである。
①あいまいな戦略目的
いかなる軍事上の作戦においても、そこに明確な戦略ないし、作戦目的が存在しなければならない。ミッドウェーでは、ミッドウェー島攻略を志向すると共に、米艦隊撃滅を目的とする二重性が見られた。
戦争全体をできるだけ有利なうちに終結させるグランド・デザインが欠如していたことで、作戦目的に関する全軍的一致を確立できなかった。
②短期決戦の戦略志向
日本軍の戦略志向は短期的性格が強かった。日米戦自体、緒戦において勝利し、南方資源地帯を確保して長期戦に持ち込めば、米国は戦意を喪失し、その結果として講和が獲得できるというような路線を漠然と考えていた。
短期決戦志向は、補給・兵站の軽視にもつながる。ガダルカナル、インパールでも、燃料、弾薬、食糧などの補給は常に滞りがちであった。
③主観的で「帰納的」な戦略策定
日本軍の戦略策定は一定の原理や論理に基づくというよりは、多分に情緒や空気が支配する傾向があった。インパールでの戦略策定でも牟田口中将の「必勝の信念」に対し、補佐すべき幕僚は、もはや何を言っても無理だというムードにつつまれてしまった。
④狭くて進化のない戦略オプション
緒戦の決戦で一気に勝利を収める奇襲戦法は、日本軍の好む戦闘パターンであった。日露戦争時の日本海海戦で日本海軍が大勝したため、大鑑巨砲、艦隊決戦主義が唯一至上の戦略オプションになった。
⑤アンバランスな戦闘技術体系
日本軍の技術体系は「零戦」など一点豪華で、その操作に名人芸を要求した。これは量産という点で制約をもたらした。
⑥人的ネットワーク偏重の組織構造
陸大出身者を中心とするエリート集団は、参謀という職務を通じ、指揮権に介入し人的ネットワークを形成した。結果、組織内部において、リーダーシップが下から発揮されることが起こった。
⑦属人的な組織の統合
大本営では、陸海軍部は各々独自の機構とスタッフを持ち、相互に完全に独立し、併存していた。両軍の間には多くの摩擦や対立が生じた。作戦行動上の統合は、個人によって実現されることが多かった。
⑧学習を軽視した組織
陸軍は装備の近代化より、兵力量の増加に重点を置き、その精神力の優位性を強調した。結果、敵戦力の過小評価、自己戦力の過大評価に陥り、組織的な学習を妨げる結果になった。
⑨プロセスや動機を重視した評価
日本軍は結果よりもプロセスを評価した。戦闘結果よりは、リーダーの意図や、やる気が評価された。評価のあいまいさは、組織学習を阻害し、論理よりも声の大きな者の突出を許容した。