「やさしさ」という技術――賢い利己主義者になるための7講

発刊
2015年12月3日
ページ数
224ページ
読了目安
265分
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人にやさしくするための技術
世界でトップレベルの医大・カロリンスカ医科大学で「学生が選ぶ最優秀教授」にかがやいた名医が、倫理的に生きることの意義と効用を説いた一冊。人に与える人が成功するとし、人にやさしくする事のメリットを説き、やさしさを持つための技術を紹介しています。

「やさしさ」は技術である

「やさしい人」とは、倫理に従って生きている人である。やさしい人は、常に他人に対する思いやりの心を忘れない。それに「やさしさ」というのが本当はどういうものなのかを理解しているという意味で、非常に賢い。

やさしさは人生で成功するために必要な、唯一にして最も重要な要素だ。だから、どうしても他人にやさしくなれないのであれば、すべては自分自身が成功するためなのだと、自分に言い聞かせればいい。

やさしくあろうといっても、簡単に実行できるとは限らない。例えば、いつも他人の思い通りにさせてやるのは、やさしさではない。やさしさというのは、おおいに判断力を要する資質である。なぜなら、短期的に見れば良くないと思えるような事もしなければならない場合があるからだ。

一般的な通念では、やさしさとは「生まれもった資質・性格」であって。個人の意思でコントロールできるものではない。だがこれは正しくない。やさしさというのは、誰でも意識的に身につける事ができ、一生磨き続ける事ができる「技術」である。

 

やさしさには思慮深さと判断力が必要である

やさしさにおいて重要なのは、良い事を考える事ではなく、良い行いをする事である。大切なのは気持ちではなく、行動である。世界の美しい感情をすべて集めても、ただ1つのやさしい行為にはかなわない。だから「大切なのは気持ち」という台詞は今すぐゴミ箱に捨てること。

但し、やさしさに思考が不要な訳ではない。やさしさには、私達が持てる限りの思考力と倫理の知力が求められる。的確な判断力を持たずにやさしい行いをする事は、極めて困難だ。

人にやさしく接するのは、知性の1つの形である。私達にはみな、十分に発達した倫理の知性が備わっており、この知性を生涯にわたって発達させるのに妨げになるものはない。「やさしさ」は、正しい判断と結びつくものなのだ。

倫理は、私達が「偽りのやさしさ」を隠れ蓑にした弱さや愚かさから来る行動をとろうとする時に、私達を正しい方向に導いてくれる。ここで大切なのは、自分自身の行動の意味をきちんと理解する事である。

 

倫理のジレンマを解く5つのツール

ジレンマに直面した時にどう判断し、行動するかという問題を扱う分野を「倫理」という。やさしさと倫理は多くの点で重なり合っている。倫理とは、私達が人類という仲間であり続けるための技術である。倫理とは良い行いをするための基盤であり、人道的な社会を築くための基盤であり、ヒトという種として生き延びるための基盤である。

倫理は日常の中にある。日々の生活は倫理のジレンマに満ちている。良い事をする条件の1つは、ジレンマを知る力がある事だ。もう1つは、自由に使える倫理のツールを持っている事である。

①ルール
どう行動すべきかを示す倫理的な「原則」や「規範」「規則」「法律」である。これらは道標にはなっても正解を与えてくれる訳ではない。

②判断力
物事を合理的に分析し、いかに最善の方法がとれるか、過ちを避けるにはどうすればいいかを判断する力である。ジレンマを論理的に分析する能力は、生涯にわたって磨き続ける事ができる。

③良心
良心は、人間の内なる羅針盤として機能し、何が善で何が悪かを示す。良心は、私達の振る舞いの方向性を示す、感情的な指標となる。この力によって、私達は適切な決断を下し、悪い結果を招くような行いを避ける事ができる。

④共感力
他人の立場に立って感じとる能力である。私達はこの力を使って、良い行いをするか、しないかを決める。

⑤他者
助言を求める相手、いわば共鳴板としての「他者」である。他人に助言を求める事は、強力なツールである。

この5つのツールを使いこなせると、倫理のジレンマにうまく対処できる可能性が高まる。

 

「良い人間」になれない理由

人が最善の意図があっても最善の行動ができないのは、マイナスの力のせいである。やさしさを磨いていくために重要なのは、自分の行動の原因を理解すること、つまり自分をより知る事だ。良い行いができない時があるのはなぜなのか、その理由がわかりさえすれば、私達は自分を変えるスタートラインに立てる。

 

①リソース不足
仕事や勉強、家族や友人との付き合い、余暇や自分磨き、これらをすべて一度に、しかもうまくやりくりせねばならず、時間が足りない。これに対処するには、できる限りうまく優先順位をつける能力を養い、燃え尽きてしまわないためにも自分の決断を後悔せずに受け入れる術を学ぶしかない。

②共感力不足
共感とは他人の考え方を理解する力だ。人にやさしくしたいと思うなら、相手が何を必要としているのかを知らなくてはならない。

③思慮不足
誰でもやさしさに欠ける決断をしてしまう事がある。ただ単に考えが足りないのだ。「私が今、相手と同じ状況に置かれていたら、他人から何をしてもらいたいだろう?」と考えれば、もっと賢い決断ができる。

④「他人ごと」主義
「誰もが自分の問題は自分で解決しなければならない」という考え方は間違っている。私達は互いに深く依存しながら生きている。

⑤理想と現実の落差に無自覚であること
「どう生きたいか」と「実際はどう生きているか」の間には、時に深い溝がある。誰でも自分の理想通りに、平穏に生きたいと願っている。そのためにはまず、心の中の倫理規範と実際の行動の間には隔たりがあると自覚する事が大切だ。

⑥生物としての攻撃性
大抵の人は、社会生活を営むためにそれをうまくコントロールしているが、何かのきっかけでたがが外れると、本人も驚くような攻撃性を見せる事がある。重要なのは「自分の中にも攻撃性がある」という事実を受け入れ、それをコントロールする事だ。

⑦無力感
誰でも自分には何もできないと思い、二の足を踏む事はある。だが、私達はいつでも誰にでも、誰かのためにできる事はある。

⑧「誰かがやるだろう」という思い込み
本当は自分でもできるのに、他の人がやってくれるのを期待するという、非常に消極的な態度だ。人は周囲に助けの手を差しのべる人が大勢いればいるほど、自分が助けようとはしなくなる事がわかっている。

⑨選べない選択肢
時にどの道を選ぼうと悪い結果がついてくるという状況に陥る事がある。

これらマイナスの力に対処するには、まずは自分の行動の理由を理解すること。つまり、マイナスの力が働いている時に、そうと気づけるようになる事だ。それができれば問題に対処しやすくなり、意識的な決断ができるようになる。

参考文献・紹介書籍