自分の内側に注意を向ける
仕事、本、上司や部下、飲食物、スマートフォンなど、私たちは生活している時間の多くにおいて、「外側」の世界に注意を向けている。しかし、私たちの注意の対象は「外側」だけでなく、「内側」にもある。お腹の減り具合、眠気、今考えていること、感じていること、過去の体験を思い出している時、未来を想像している時、私たちの注意は「内側」にある。
単に「外側」の情報を浴びるだけで、感じることも思考もしない状態でいると、それはまさに「外側」の刺激物に、自分の世界が独占されるということになる。「内側」に注意を向けずに「外側」の刺激をただ浴びている状態は、成長を止め、幸せを奪う可能性も秘めている。
幸せの反応は間違いなく、私たちの「内側」で起きている。どんなに幸せな反応をしたとしても、そのことに気づくことができなければ、すなわち「内側」の自分の幸せな反応という情報に注意を向けることができなければ、幸せを感じることすらできない。「内側」の幸せの反応に気づきやすくするためには、一見見逃してしまいそうなささやかなポジティブな側面に注意を向ける脳の使い方が大切である。
ポジティブな反応に気づき、味わう習慣を身につける
私たちの脳には、この自分の内側での反応をモニタリングしている機能があり、その脳のネットワークを「サリエンスネットワーク」と言う。「外側」の刺激に誘引されやすい現代は、「内側」に注意を向けるサリエンスネットワークが働きづらくなっている可能性がある。そのため、幸せも感じづらくなっている。
サリエンスネットワークを機能させるためには、「間」をもって味わうことが大切になる。神経科学の大事な原則の1つに「Use it or Lost it」という言葉がある。脳を構成する神経細胞と神経細胞の結び目であるシナプスという構造体は、その対象の神経細胞たちが使われれば結びつき、そうでなければ失われる。脳の回路を存続させていくためには、シナプスを使うしかない。
幸せになるためには、自分の「内側」の幸せの反応に気づいてあげること、そしてその情報を脳に書き込んでいくことが必要である。取り込んだものは、脳の神経細胞の構造を変え、記憶痕跡という形で宿る。ポジティブな反応をしている自分に気づき、さらにそのことを頭で再度想起し、さらに味わうことで、脳への書き込み、記憶化を加速する必要がある。記憶に残すためのコツは、勉強と同じで、想起する(記憶を引き出す)ことである。
ストレスは学びになると常に意識する
ストレスには、ポジティブな面もあれば、ネガティブな面もある。
- ダークストレス:私たちを悩ませ、苦しませ、うつ病の原因になったりする
- ブライトストレス:成長や幸せにも貢献する
苦難に立ち向かい、挑戦し続け、挫折や失敗などを繰り返しながら、前を向き、諦めずにやり遂げた時に、大きな感動が生まれる。その過程には多大なストレスがかかっており、だからこそ、大きな感動は生まれる。逆にストレスなく成し遂げたことは、本質的な感動にはならない。ストレスにより、学びが促進され、大きく成長し、強くなる。
ストレス反応の認識には、サリエンスネットワークが寄与している。ストレスとうまく付き合っていくためには、自分のストレス反応に気づく必要がある。ささやかなストレス反応に耳を傾けられるようになり、その段階で対処できるようになれば、ストレスは私たちに悪さをすることは少ない。
日頃から、自己のストレスと向き合い、いかにそれが自己の学びになっているのか、成長やパフォーマンスにポジティブに作用しているのか、その繰り返しの自己内省による「ストレス=学び」の記憶を強く育んでいく必要がある。
ストレスを力に変える方法
「ストレス=学び」を理解し、自分の内側に血肉化させ、強い記憶の結晶を育むためには、意識した振り返り、記憶の再想起が重要である。そうすることで、ダークストレスをブライトストレスに変換できる脳が形成される。そのための方法は次の通り。
①プロセスドリブン脳
結果だけでなく、そこに至るプロセスを再度認識し、ポジティブなエピソードと感情の記憶を脳に記憶痕跡として残す。
②レジリエンス脳
成功体験、成長の実感のあるタイミングで、過去の失敗やストレス体験、モヤモヤ、葛藤を想起し、ストレスは成功や成長のための一部であると脳に刻み込む。
③成長ドリブン脳
自分の成長、できている部分に注意を向け、そのことを強く脳に記憶していく。失敗を自己の学びのモチベーションにつなげるためには、まずは自分が成長しているという実感を記憶に強く植え付ける必要がある。
④希望脳
上記3つの脳を育むことで、根拠なき自信、希望を持つことができる。