少年時代
イーロン・マスクは1971年に南アフリカ北東部の首都プレトリアに生まれた。彼は子供時代に海外旅行が楽しめる裕福な家庭に育ったが、その頃からアパルトヘイト政策に対する自国に向けられた外部の目を意識するようになった。やがて、彼の視線は米国へ向かうようになる。米国をチャンスの地と捉え「人類救済」という夢の実現に一番近い場所と考えた。
マスクはとにかく好奇心旺盛で活発な子だった。だが、時々ボーッとなって心ここにあらずの状態に陥った。この白昼夢状態は本人にとっては、外界と断絶して1つの事に全神経を集中させる術として、至福の瞬間だった。少年時代のマスクの性格で印象的なのが、異常とも言える読書欲だ。1日10時間、本にかじりついている事も珍しくなく、いつも片手に本を持っていた。
高校時代はビデオゲームのプログラムを作って、大人を驚かせる事もあった。驚異的な記憶力の持ち主だったが、学校で与えられた勉強にはまるで興味がなかったため、学校の成績はあまり良くなかった。
学生時代
南アフリカは起業家精神溢れる者にとってはチャンスの乏しい国だった。17歳を迎えたマスクはカナダを目指す。親戚を頼ってカナダに渡り、米国に移動する事にした。1989年、マスクはクイーンズ大学に入学。大学では少しでも知らない事があれば徹底的に勉強し、自分の知能を認めてくれる人々を探す場になっていた。1992年、奨学金を得てペンシルバニア大学に編入。そこで経済学を学び、さらに物理学の学位も取った。大学卒業後は、スタンフォード大学院で材料工学と物理学の博士号を取得し、ウルトラキャパシター関係の研究を深めるつもりだったが、わずか2日で中退する。インターネットに秘められた魅力に取り憑かれたからだ。
初めての起業
1995年、マスクは兄弟でZip2というベンチャー企業を立ち上げる。アイデアは単純なものだった。レストランや美容院等を訪問し、インターネット利用者に店の存在を知ってもらうための、検索対応の企業リストを作成し、地図を連動させた。1996年、Zip2はベンチャーキャピタルから300万ドルの投資を取り付けた。この資金調達を機に経営戦略も変更。サービスをウェブ上の道順案内ソフトとして、案内広告を扱っている新聞社にソフト自体を売り込み、業績は大きく伸びた。1999年、同社はPCメーカーのコンパックから3億7000万ドルで買収され、マスクは2200万ドルを手にした。
ペイパル
マスクは27歳にしてIT長者の座を手に入れ、次を考えた。莫大な金が動き、かつ非効率な部分が大量に残っているのはどの業界か。その分野をインターネットで解決しようとした。狙ったのはネット上に本格的な金融機関を作る事だ。Zip2の優秀な技術者を引き抜き、新たなベンチャーに錚々たるメンバーを揃えた。マスクはX.comに1200万ドルを投じ、Zip2で手にしたお金の大部分を注ぎ込んだ。
1999年、X.comは銀行サービスを開始した。斬新だったのは、送金サービスだ。送金先のメールアドレスを入れるだけで送金が完了する。開業からわずか2〜3ヶ月で20万人以上がX.comで口座を開設。2000年、同社はペイパルというサービスを持つライバル会社と合併し、マスクは筆頭株主になった。2002年、同社はイーベイに15億ドルで買収され、マスクは2億5000万ドルを手にした。