集中するためには夢中になれることをする
「集中」という言葉には、「(やりたくないけれど)集中しなければ」という受動的スタンスがある。本当に集中力の高い人は、「集中しなければ」などという受動的な感覚は持っていない。仕事を仕事だと思っておらず、理由を説明できないくらい目の前のことが楽しくて仕方がないようなタイプの人が多い。
ただ目の前のことに集中できるハウツーだけでなく、起業家やアーティストのように「夢中」で働くにはどうすればいいのか。起業家やアーティストのように「深い集中」状態で働くためには、「集中しなければ」などという受動的スタンスでは難しく、能動的に「夢中」になることが重要である。
・集中:受動的スタンス
所属組織や周りの人間からの要請に応える「外発的動機」を基にした行為
・夢中:能動的スタンス
周りからの要請ではなく、自分の「内発的動機」に根ざした行為
どんな領域でも、集中して取り組む時間が累計で「1万時間」になると、その領域のプロフェッショナルになれる。仕事に夢中で取り組めるのは50年だと考えると、人に与えられた集中時間の総量は「5万時間」しかない。つまり、人生をどんなに上手くやりくりしても「5つのこと」しか極めることができない。
今、目の前の仕事が、人生の1/5をかけてもやりたいことか。それを考える機会にすること。そこに疑問があれば、集中は続かない。「なぜ、これをやっているのか」を腹落ちさせて取り組むことが大事である。
集中を取り戻すための3つの概念
最高のパフォーマンスを上げるためには、次の3つの概念によって、フィジカル・メンタルの課題やクリエイティブワークへの障害などの問題に向き合う。
①集中力の要素分解
集中力は次の3つに分けることができる。
- 立ち上げ速度(「よし、やるぞ」)
- 集中の深さ(「集中できてきたな」)
- 集中の持続力(「まだまだいけそうだ」)
調査では、多くの人は「立ち上げ速度」で悩んでいた。人の脳は、切り替えるタイミングには負荷がかかるが、作業をし始めてしまうとあまりつらくなくなる。「立ち上げ速度」を高めるには、以下の方法がある。
- デスクの周辺には、仕事に関係のないものをあまり置かない
- 作業を休む時には、あえて単純なタスクの中途半端なところで中断する
- 簡単なことを小さく始める
- 決まった時間に、あらかじめ決めたことをやる
②3つの脳の切り替え
脳には大きく分けて3つのモードがある。
- 直感の脳(デフォルトモード・ネットワーク):自分に関連する問題や過去について考える時に活性化
- 大局観の脳(サリエンス・ネットワーク):直感と理性の2つの脳を切り替える
- 理性の脳(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク):目標に向かって計画を立てたり、集中する時に活性化
この3つの脳を切り替えるように1日を過ごすのが大事である。リモートワークが続く自粛生活では、いつも同じ部屋にいることで刺激が一定になり、同僚との雑談もなく予定通りの会議をこなすばかり。このような状態では、「理性の脳」しか使っていないことになる。
そこから抜け出すには、脳に刺激を与えて「大局観の脳」から「直感の脳」へと切り替えることが必要である。アイデアを出すためには「ゆとり」や「ゆらぎ」の時間を作るといった過ごし方が重要になる。
③時間管理の基本戦略
人生においては、次の3つのリソースを意識的に時間で振り分けることが大事である。
- ワーク:仕事に集中する時間
- セルフ:自分1人の時間
- リレーション:家族や友人などと過ごす時間
在宅勤務の大きな問題は、「ワーク・セルフ・リレーション」の境目がぐちゃぐちゃになることである。1つ1つを濃密な時間にするためには、それぞれの良い点を際立たせるための「間」が必要である。「時間」「空間」「仲間」という3つを1週間単位で整理するとよい。
- 時間:時間ごとに「ワーク・セルフ・リレーション」のどれを大事にするか、何をやるか、やらないかを決める
- 空間:「ワーク・セルフ・リレーション」を区切るための空間を環境設計する
- 仲間:人が動かない時代に、大事な仲間が誰で、どうつながるかを設計する