生命の意味を定義するための基本原理
生命は、次の3つの原理が合わさって、初めて定義される。この3つすべてに従って機能する存在は、生きているとみなすことができる。
①自然淘汰を通じて進化する能力
これは3つの本質的な特性に依存してる。進化するために、生き物は「生殖」し、「遺伝システム」を備え、その遺伝システムが「変動」する必要がある。この3つの特性を持っているものは、進化できるし、実際に進化する。
②生命体が境界を持つ、物理的な存在であること
生命体は周りの環境から切り離されながらも、その環境とコミュニケーションを取っている。この原理は、生命に特有の性質をはっきりと示している一番単純なもの、すなわち、細胞から導き出される。この原理は、生命の物質性を必要とするため、コンピューターのプログラムや文化的な活動などは、進化しているように見えたとしても、生命からは除外される。
③生き物は化学的、物理的、情報的な機械であること
自らの代謝を構築し、その代謝を利用して自らを維持し、成長し、再生する機械である。このような生きた機械は、情報を操ることによって、協調的に制御される。その結果、生き物は、目的を持った総体として機能する。
並外れた生命の化学的特質
生きている機械はどのように働くのか。その真価を理解するには、生命を支える、尋常ならざる化学の形態を深く理解する必要がある。この化学構造は、主に炭素原子がつながった、高分子の周りに構築されているのが大きな特徴だ。DNAもその内の1つである。
その主な目的は、高い信頼性で長期にわたり、情報を保存すること。この目的のために、情報を保持している決定的な要素であるヌクレオチド塩基は「らせん中心部」に遮蔽されている。これは情報を安定的に守る仕組みだ。
しかし、遺伝子のDNA配列に保存された情報は、不活性のまま、じっと息を潜めているわけにはいかない。生命を支える代謝活動を行ったり、身体構造を作ったりするため、行動を起こす必要がある。化学的に安定しているDNAの握っている情報を、化学的に活性化した分子であるタンパク質に翻訳する必要がある。
タンパク質も炭素を元にした高分子だが、DNAとは対照的だ。タンパク質の化学的に変化可能な部分のほとんどは高分子の「外側」にある。つまり、この外側のパーツはタンパク質の三次元形状に影響を与えつつ、世界と相互作用する。そのおかげで、化学的な機械の構築、維持、再生など、多くの機能を実行することが可能になる。さらに、DNAと違って、タンパク質が損傷を受けたり破壊されたりした場合、細胞が新しいタンパク質分子を作って取り替えれば済む。
線状に連なった炭素ポリマーの配置により、化学的に安定した情報記憶装置と多様性に富んだ化学的活性の両方を生み出す。生命の化学的特質のこのような側面は、実に単純で並外れている。生命が複雑な高分子化学と情報の「直線配列」とを結びつける方法は、説得力がある。この原理は、地球上の生命の中核をなすだけでなく、宇宙のどこかにいるかもしれない生命にとっても不可欠である可能性が高い。
生命の樹
生き物には、全面的に他に依存するウイルスから、自給自足の生活を送るシアノバクテリアや古細菌や植物まで、境目のないグラデーションがある。こうした異なる形態はすべて生きている。すべての形態は、程度の差こそあれ、他の生き物に依存しつつ、自然淘汰で進化し、自らを律する物理的存在であることには変わらないからだ。
この広い視野に立って生命を眺めると、生物界に対する広々とした視界が開ける。地球上の生命は1つの生態系に属している。そこには、あらゆる生き物が組み込まれ、相互にあまねくつながっている。このつながりは本質的なものだ。それは、相互依存の深さだけでなく、あらゆる生命が共通の進化のルーツを通して遺伝的に親戚であることによってもたらされる。
生命が共有する家系図、生命の樹のたくさんの枝の生き物たちは、驚くほど多様だ。しかし、化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ。生命の化学的基礎におけるこうした深い共通性は、驚くべき結論を指し示している。今日地球上にある生命の始まりは「たった1回」だけだった。もし異なる生命体が、それぞれ何回かにわたって別々に出現し、生き延びてきたとしたら、その全子孫が、これほどまで同じ基本機能で動いている可能性は極めて低い。