五〇億年の孤独 宇宙に生命を探す天文学者たち

発刊
2016年3月24日
ページ数
368ページ
読了目安
596分
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地球外知的生命体を探す旅
宇宙に知的生命体の存在を探し続ける天文学者達の活動を追った一冊。

SETIの凋落

天文学者は何年にもわたって世界中の電波望遠鏡を使って何百という探査を実施し、何千という恒星にアンテナを向けて何百万という狭帯域に耳を澄ませた。だが、異星人や知性やテクノロジーの存在を示す文句なしの証拠はどの探査からも上がらなかった。そのためSETI(地球外知的生命体探査)の関係者はこの分野そのものの存続のため、異星人からの信号を追い求めるのに勝るとも劣らない熱意で資金源を探し続けてきた。

当初は政府が大きな関心を寄せた。SETIはつかの間、米ソが冷戦中に競った科学分野の1つとなった。星同士のコミュニケーションから計り知れないほど貴重な知識が得られ、それを活かせるのではないか。そこへ1971年、NASAのある有力な委員会が、地球から1000光年以内の星から異星人が発する電波通信を本格的に探査するには、集光面積の合計が3〜10㎢になるような巨大電波望遠鏡の一群が必要となり、その建設費用は約100億ドルにのぼるという結論に至った。この数字に政治家や納税者は尻込みし、SETIの長きにわたる凋落が始まった。成果ゼロの時代が延々と続き、国家予算が減っていき、1993年以降、国からの予算は直接的には1ドルも付いていない。

 

系外惑星天文学の興隆

経済的な難題の他にも、SETIが下火になった要因に、系外惑星(太陽以外の恒星の周りを回る惑星)の発見と研究に特化した分野である系外惑星天文学の興隆がある。1990年代の初め頃、電波望遠鏡によって、天文学で革命が始まった。最新機器を使った観測で系外惑星が次々発見され出したのだ。2013年になると、ケプラー宇宙望遠鏡というNASAのミッションの1つだけで、2700個を超える系外惑星らしきものが発見されている。その内ほんのいくつかは、生命が存在できそうな範囲に収まっているものがあった。天文学者は、巨大な宇宙望遠鏡を造って近隣の恒星の周りを回るハビタブル惑星のどれかに生命の兆候を探す事を真剣に議論した。半世紀にわたって成果のなかったSETIは、系外惑星ブームの蚊帳の外だった。地球外生命に関心がある者にとって、参入すべきはSETIではなく系外惑星天文学だった。

 

ドレイクの式

初めて現代的なSETIを始めた天文学者ドレイクが、他の生命形態がどこかにきっと存在するという確信を得たのは1961年に行われた「グリーンバンク会議」であった。ここでSETIに、太陽以外の恒星の周りに存在する文明を首尾よく検出できる可能性が合理的に存在するかどうかが定量的に示された。

N=R fp ne fl fi fc L

N:検出可能な先進文明の数
R:銀河系に恒星が生まれる速さの平均
fp:惑星形成率
ne:生命に適している率
fl:生命が生まれる率
fi:知性が誕生する率
fc:星間距離を超えてコミュニケーションを図れる知的な異星人の割合
L:技術文明の平均存続期間

ドレイクは、存続期間は重要だと考えた。銀河系は途方もなく大きく、その寿命は驚異的に長い上、光速より速く宇宙空間を進めるものはなさそうだからである。進んだ技術文明の平均寿命が短ければ、接触の機会が事実上ないまま、通信技術を駆使できる段階が終わる。

 

孤独な地球

系外惑星ブームで得られたデータを統計分析にかけたところ、惑星は多様多種な恒星の周りに、銀河系だけでも何千億と存在していそうだった。そうした惑星のそれなりの割合が、属する惑星系のハビタブルゾーン内を回っているはずである。しかし、ハビタブルかもしれない星はたくさん見つかっているが、知的で技術を持つ生命が見つかりそうな星の数は大して増えていない。この事から広く拡散する強力な技術の発展には大きな壁があると考えられる。その壁を越えるには、地球によく似た惑星が必要かもしれない。