知の逆転

発刊
2012年12月6日
ページ数
304ページ
読了目安
389分
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現代最高の知性6人のインタビュー
文明、遺伝子、言語学などで、学問の常識を逆転させた世界最高の学者6人に対するインタビューをまとめたもの。

文明、宗教、資本主義、教育、人工知能、脳科学、インターネットなど、様々なテーマで人類の将来を語っている。

文明の崩壊:ジャレド・ダイヤモンド

・文明にとって、今後も地理的な要素は、重要か?
2つの理由から重要な役割を果たしていく。1つは現時点における地理。アフリカが最も貧しい大陸であるのは、それ全体がほぼ熱帯気候であるからで、公衆衛生や病気、土地が不毛である事など、大きな問題がある。

もう1つは歴史的な地理。歴史上、地理的な要素は過去1万年もの間、影響を及ぼしてきた。イラクやイラン等の肥沃な三日月地帯の国々や中国では、1万年前、他の地域に先んじて農業が始まっている。200年前にやっと農業が始まった地域は、1万年前からやっている所と競争にはならない。

 

・文明はどのように崩壊するのか?
文明が崩壊するには、5つの要素が関係してくる。①環境に対する取り返しのつかない人為的な影響、②気候の変化、③敵対する近隣諸国との対立、④友好国からの疎遠、⑤環境問題に対する誤った対処。必ずしも5つ全ての要素が国や社会の崩壊に関与しているとは限らない。

 

・人口増加や資源活用の点から見て、私たちは成長の限界に達しつつあるのか?
既に成長の限界に達している。世界の漁場は開発されつくし、森林も伐採の限界に達している。もはや世界の現状を支えるための資源が十分にはない状態である。あと20、30年もすれば、さらに30億人もの人間が大量消費するようになって、資源の枯渇に拍車がかかるのは明らかだが、この事が暴力的な戦いにつながるかどうかは、我々の決断にかかっている。

 

・先進諸国は生き残るために何をすべきか?
現在のように消費量の格差がある限り、世界は不安定のままである。安定した世界が生まれるためには、生活水準がほぼ均一に向かう必要がある。持たざる国はますます効果的に自分たちの不満を相手に伝える手段を獲得するようになる。例えば持たざる国が核兵器を持つのは時間の問題。よって、解決策は世界中の生活水準の均衡化という事にならざるをえない。

 

・宗教の起源とはどのようなものか?
ほぼ全ての人間社会にはなんらかの宗教が存在する。という事は、宗教がなんらかの役割を演じてきた事を物語っている。宗教のもたらす恩恵とは、宗教が強力な動機を与えること。過去において宗教は、隣国の人々を殺すための動機を与え、征服意欲をあおって、時の支配階級にとって有利になるように働いてきた。

 

・「人生の意味」とはどういうものか?
「人生の意味」というものを問うことに、全く何の意味も見出せない。人生というのは、星や岩や炭素原子と同じように、ただそこに存在するというだけの事であって、意味というものは持ち合わせていない。我々の生の目的は、地球上で平和に共生する人間の数を最大にするという事ではないし、数が多ければいいというものでもない。

 

資本主義と民主主義の限界:ノーム・チョムスキー

・市場原理だけでは必ず破綻する
アメリカは資本主義の国という事になっているが、人々が使うほとんど全てのものは、経済の公共部門から出てきたもの、つまり元々は税金によって、政府のプロジェクトとして開発されたものである。

唯一市場原理だけで動いているのが、金融部門。だから何度も破綻する。市場原理だけでは破綻は避けられない。金融部門はほぼ10年ごとに大きな危機に見舞われている。

アメリカが19世紀に発展を遂げたのは、より優れた英国製品の流入を制御すべく、世界一高い保護関税をかけていたから。日本も同じで、先進国はみなこのようにして発展した。資本主義の要素はあるが、実際のところ民間ビジネスは強い政府によって保護される事を望んでいる。

市場世界では、自分達の利益を最短時間で最大にするという任務を負っているので、外部性(システム全体の危機)を考慮しない。これが市場というものの性質である。

 

・民主主義の限界
民主主義はそれ自体に価値があるが、実際には、なんらかの権利を求める場合、人々はその権利獲得のために大変な努力を払う必要がある。単に与えられた権利の場合、ありがたみがないので、結局十分に使わずじまいになってしまう。

西欧社会における民主主義はこれまでほぼポジティブであった。問題は民主主義の限界である。アメリカは世界中で最も自由な国のはずだが、国内で力の不均衡がある。情報システム、メディア、広告などが、ほんの一部の手に集中している。自由国家では、国内の支配がごくわずかの巨大なパワープレーヤーに集中してしまいがちになる。しかもアメリカでは1/3が聖書に書いてある事を文字通り信じている。この2つが一緒になると、大変危険な事になる。

 

・インターネットは新しい民主主義を生み出すか
インターネットは素晴らしい調査研究の道具になるし、広く様々な種類の道具へのアクセスを可能にしてくれる。しかし、情報にアクセスする事自体は、あまり役に立たない。何を探すべきか知っている必要がある。そのためには、理解あるいは解釈の枠組みというものをしっかり持っていなければならない。これを個人で獲得するのは大変である。機能している教育制度や組織が必要だし、他の人達との交流が必要になる。視点というものが形作られ発展していくためには、構造を持った社会が必要になる。

現代は大変細分化された社会で、組合も政党も影が薄い。そういう社会では、インターネットはカルトを生む土壌になる。インターネットはコミュニティを基本とする民主主義の土台になる事は可能だが、ほとんどの人々にとってインターネットは個人で使う道具の域を出ない。